大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

文字の大きさ
上 下
11 / 20

魔除けと土左衛門④

しおりを挟む
「日本橋の話は何か、浅草の人死にと神田の火事が合わさった風だね」

「ああ、日本橋の話は妙に細かい。浅草と神田の話は言っちゃ何だか大雑把おおざっぱだ。『大勢死ぬ』だから何人死ぬのか言っちゃいねぇ。神田の話も『大火事』だろう。何軒焼けるのか、何人死ぬのかわからねぇ」

「そうか、日本橋の話は『三人死ぬ』って人数をはっきりさせている。妙に細かいってそういうことだね。でも、それって、どうして?」

「わからねぇか? てめぇの頭で考えてみなよ」
「マレさん、じらさないで教えてよ」

「俺の考えはこうだ。浅草と神田の話を作った奴と、日本橋の話を作った奴は別人なのさ。日本橋の話は、浅草と神田のそれを真似て作られた。言ってみれば、話の盗人だな」

「ちょっと待った。今、『作った』って言ったよね。化け物の話は作られたの? 本当にあったことじゃなくて、嘘なの?」

「ああ、絵草紙えぞうし滑稽本こっけいぼんと同じだ。嘘は作り事だが、本来は人を楽しませるためにある。化け物の話だって江戸っ子の大好物だから流行るのさ。まぁ、罪のない嘘だな」

 子供相手に実も蓋もない言い方だが、希之介の言葉には真実を語る力強さに満ちていた。

「だが、一方では嘘を悪用して、金儲けをしようとする連中もいる。ほら、見世物小屋の河童を見たサブなら、よくわかるだろう。あれは、罪のない嘘とは言えねぇ」

「うん、それはよくわかる」サブは大きく頷いた。

「日本橋の話にも後ろ暗い嘘が関わっている。死人が出るくらいだからな。連中も相当やばい橋を渡っているのさ」

 そう言って、希之介は大きく溜め息をついた。

「どうするの、源八親分に言うの?」

「さて、どうしたもんかな。下手人の正体に関しては、何一つわかっちゃいねぇんだ」希之介は指先でこめかみを叩き、「証拠は、俺の頭の中だけ。これじゃ、鼻で笑われるのがオチだぜ」

 その時は納得したサブだったが、後に嘘をつかれていたことを知る。
 希之介は既に、下手人の正体を掴んでいた。ただ、サブを巻き込まないために、嘘をついていたのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

最後の一行を考えながら読むと十倍おもしろい140文字ほどの話(まばたきノベル)

坂本 光陽
ミステリー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎる小説をまとめました。どうぞ、お気軽に御覧ください。ラスト一行のカタルシス。ラスト一行のドンデン返し。ラスト一行で明かされる真実。一話140字以内なので、別名「ツイッター小説」。ショートショートよりも短いミニミニ小説を公開します。ホラー・ミステリー小説大賞に参加しておりますので、どうぞ、よろしくお願いします。

マスクドアセッサー

碧 春海
ミステリー
主人公朝比奈優作が裁判員に選ばれて1つの事件に出会う事から始まるミステリー小説 朝比奈優作シリーズ第5弾。

シグナルグリーンの天使たち

ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。 店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。 ※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました  応援ありがとうございました! 全話統合PDFはこちら https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613 長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

緩やかな波音

三谷朱花
ミステリー
祖母が死んだ。それは自然に訪れた死だったのか。死をめぐるミステリー。 ※アルファポリスのみの公開です。

処理中です...