上 下
10 / 20

魔除けと土左衛門③

しおりを挟む
「そうかぁ? 水ぶくれをしているから、よくわからんな」
「いや、間違いねぇ。ほら、右頬の黒子ほくろには見覚えがある」

 これは、サブの得意技だった。一度見たものは、絶対に忘れないのだ。すべて覚えているとは言い切れないが、とりわけ印象的な出来事や物事に関しては、人並み外れた記憶力を発揮する。

「ちょっと、あんたたち、何してんの。それは、子供が見るものじゃないわよ」

 通りすがりの女性が声をかけてきたので、二人はおとなしく退散することにした。

 サブの脳裏には、土左衛門の顔がしっかり焼きついている。家に戻ると早速、思うがままに筆を振るった。

 翌日、朝飯もそこそこに、土左衛門の絵を手にもって、希之介の長屋に駆けこんだ。まだ眠っていた希之介を叩き起こして、土左衛門の一件を早口でまくしたてた。

「なるほどな。やはり、死んでいやがったか」
「あんまり驚かないんだね。どうしてさ?」

「いや、うすうす、そんなとこじゃねぇかと踏んでいたんだ」希之介はサブの絵を見ながら、「連中は絶対に裏切りを許さねぇからな」
「裏切りって、どういうこと?」サブは好奇心に眼を輝かせる。

「ガキは知らなくていい。といっても、おまえさんも半分、顔を突っ込んじまっているしな」希之介はサブの顔をジッと覗き込み、「サブ、やばい橋を渡る覚悟があるか?」

「ある」サブは即答した。

「わかった。少しだけ話してやる。化け物の話は聞いているな。浅草と神田のが有名だが、日本橋のそいつは少々違っていた。何が違うか、サブにわかるか?」

「何だよ、判じものかい? そうだな……」

 浅草と神田の予言は、「今年、浅草で人が大勢死ぬ」「もうすぐ、神田で大火事が起こる」というものだった。対して、日本橋のそれは確か、「日本橋で火事が起こって、人が三人死ぬ」という内容である。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

マクデブルクの半球

ナコイトオル
ミステリー
ある夜、電話がかかってきた。ただそれだけの、はずだった。 高校時代、自分と折り合いの付かなかった優等生からの唐突な電話。それが全てのはじまりだった。 電話をかけたのとほぼ同時刻、何者かに突き落とされ意識不明となった青年コウと、そんな彼と昔折り合いを付けることが出来なかった、容疑者となった女、ユキ。どうしてこうなったのかを調べていく内に、コウを突き落とした容疑者はどんどんと増えてきてしまう─── 「犯人を探そう。出来れば、彼が目を覚ますまでに」 自他共に認める在宅ストーカーを相棒に、誰かのために進む、犯人探し。

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

酔っ払いの戯言

松藤 四十弐
ミステリー
薫が切り盛りする小さな居酒屋の常連である佐々木は、酔った勢いに任せて機密情報を漏らす悪癖を持っていた。

フォロワーのHaruさんが殺されたそうです。

はらぺこおねこ。
ミステリー
11月5日 フォロワーのHaruさんが殺されたそうです。

さよならクッキー、もういない

二ノ宮明季
ミステリー
刑事の青年、阿部が出会った事件。そこには必ず鳥の姿があった。 人間のパーツが一つずつ見つかる事件の真相は――。 1話ずつの文字数は少な目。全14話ですが、総文字数は短編程度となります。

【完結】リアナの婚約条件

仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
山奥の広大な洋館で使用人として働くリアナは、目の前の男を訝し気に見た。 目の前の男、木龍ジョージはジーウ製薬会社専務であり、経済情報雑誌の表紙を何度も飾るほどの有名人だ。 その彼が、ただの使用人リアナに結婚を申し込んできた。 話を聞いていた他の使用人達が、甲高い叫び声を上げ、リアナの代わりに頷く者までいるが、リアナはどうやって木龍からの提案を断ろうか必死に考えていた。 リアナには、木龍とは結婚できない理由があった。 どうしても‥‥‥ 登場人物紹介 ・リアナ 山の上の洋館で働く使用人。22歳 ・木龍ジョージ ジーウ製薬会社専務。29歳。 ・マイラー夫人 山の上の洋館の女主人。高齢。 ・林原ケイゴ 木龍ジョージの秘書 ・東城院カオリ 木龍ジョージの友人 ・雨鳥エリナ チョウ食品会社社長夫人。長い黒髪の派手な美人。 ・雨鳥ソウマ チョウ食品会社社長。婿養子。 ・林山ガウン 不動産会社社員

柿ノ木川話譚4・悠介の巻

如月芳美
歴史・時代
女郎宿で生まれ、廓の中の世界しか知らずに育った少年。 母の死をきっかけに外の世界に飛び出してみるが、世の中のことを何も知らない。 これから住む家は? おまんまは? 着物は? 何も知らない彼が出会ったのは大名主のお嬢様。 天と地ほどの身分の差ながら、同じ目的を持つ二人は『同志』としての将来を約束する。 クールで大人びた少年と、熱い行動派のお嬢様が、とある絵師のために立ち上がる。 『柿ノ木川話譚』第4弾。 『柿ノ木川話譚1・狐杜の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/905878827 『柿ノ木川話譚2・凍夜の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/50879806 『柿ノ木川話譚3・栄吉の巻』https://www.alphapolis.co.jp/novel/793477914/398880017

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...