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魔除けと土左衛門③
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「そうかぁ? 水ぶくれをしているから、よくわからんな」
「いや、間違いねぇ。ほら、右頬の黒子には見覚えがある」
これは、サブの得意技だった。一度見たものは、絶対に忘れないのだ。すべて覚えているとは言い切れないが、とりわけ印象的な出来事や物事に関しては、人並み外れた記憶力を発揮する。
「ちょっと、あんたたち、何してんの。それは、子供が見るものじゃないわよ」
通りすがりの女性が声をかけてきたので、二人はおとなしく退散することにした。
サブの脳裏には、土左衛門の顔がしっかり焼きついている。家に戻ると早速、思うがままに筆を振るった。
翌日、朝飯もそこそこに、土左衛門の絵を手にもって、希之介の長屋に駆けこんだ。まだ眠っていた希之介を叩き起こして、土左衛門の一件を早口でまくしたてた。
「なるほどな。やはり、死んでいやがったか」
「あんまり驚かないんだね。どうしてさ?」
「いや、うすうす、そんなとこじゃねぇかと踏んでいたんだ」希之介はサブの絵を見ながら、「連中は絶対に裏切りを許さねぇからな」
「裏切りって、どういうこと?」サブは好奇心に眼を輝かせる。
「ガキは知らなくていい。といっても、おまえさんも半分、顔を突っ込んじまっているしな」希之介はサブの顔をジッと覗き込み、「サブ、やばい橋を渡る覚悟があるか?」
「ある」サブは即答した。
「わかった。少しだけ話してやる。化け物の話は聞いているな。浅草と神田のが有名だが、日本橋のそいつは少々違っていた。何が違うか、サブにわかるか?」
「何だよ、判じものかい? そうだな……」
浅草と神田の予言は、「今年、浅草で人が大勢死ぬ」「もうすぐ、神田で大火事が起こる」というものだった。対して、日本橋のそれは確か、「日本橋で火事が起こって、人が三人死ぬ」という内容である。
「いや、間違いねぇ。ほら、右頬の黒子には見覚えがある」
これは、サブの得意技だった。一度見たものは、絶対に忘れないのだ。すべて覚えているとは言い切れないが、とりわけ印象的な出来事や物事に関しては、人並み外れた記憶力を発揮する。
「ちょっと、あんたたち、何してんの。それは、子供が見るものじゃないわよ」
通りすがりの女性が声をかけてきたので、二人はおとなしく退散することにした。
サブの脳裏には、土左衛門の顔がしっかり焼きついている。家に戻ると早速、思うがままに筆を振るった。
翌日、朝飯もそこそこに、土左衛門の絵を手にもって、希之介の長屋に駆けこんだ。まだ眠っていた希之介を叩き起こして、土左衛門の一件を早口でまくしたてた。
「なるほどな。やはり、死んでいやがったか」
「あんまり驚かないんだね。どうしてさ?」
「いや、うすうす、そんなとこじゃねぇかと踏んでいたんだ」希之介はサブの絵を見ながら、「連中は絶対に裏切りを許さねぇからな」
「裏切りって、どういうこと?」サブは好奇心に眼を輝かせる。
「ガキは知らなくていい。といっても、おまえさんも半分、顔を突っ込んじまっているしな」希之介はサブの顔をジッと覗き込み、「サブ、やばい橋を渡る覚悟があるか?」
「ある」サブは即答した。
「わかった。少しだけ話してやる。化け物の話は聞いているな。浅草と神田のが有名だが、日本橋のそいつは少々違っていた。何が違うか、サブにわかるか?」
「何だよ、判じものかい? そうだな……」
浅草と神田の予言は、「今年、浅草で人が大勢死ぬ」「もうすぐ、神田で大火事が起こる」というものだった。対して、日本橋のそれは確か、「日本橋で火事が起こって、人が三人死ぬ」という内容である。
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