大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

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魔除けと土左衛門②

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「そうかな。俺の絵はおまえとは違う」サブが珍しく、反発した。「おまえはそっくりに描きたいだけだろうが、俺は生々しさを書き写したいんだ」
「ふん、言うじゃないか」と、トク。「けどよ、本物の迫力を描きたいなら、本物を見なくちゃ話にならねぇだろうな」

「武士の中の武士を見るのかい?」
「この天下泰平の世の中、そんな武士がどこにいる。だから、俺は真逆を目指そうと思っている」

 得意げに言ってのけるトクに、サブは眉をひそめた。

「何だよ、それは」
きたいか?」
「じらすな、さっさと言え」
「人の亡骸なきがらだよ。魂を失った人の身体」

「バカ言うな。どこに、そんなものがある」
「そう思うだろ。江戸っ子はきれい好きだから、見せたくないものはすぐに片づけちまう。だからこそ、急がなくちゃなんねぇんだ」
 そう言って、タクは川べりを歩き出した。

「どこに行くんだよ」と、サブが後を追う。
「聞いて驚け。大川で土左衛門どざえもんが上がったらしい」

 トクの言った「土左衛門」とは、享保年間の相撲取り,成瀬川土左衛門のことではない。彼と姿かたちがそっくりだったので、「土左衛門」という隠語で呼ばれるようになった水死体のことである。

 半刻はんとき〔1時間〕ほど歩いて、二人は目的地に辿り着いた。人影の多い通りから外れており、背の高い葦が目隠しの役割を果たしている。その一角に、土左衛門はむしろをかけられて放置されていた。

 おそらく、流れ者の無縁仏なのだろう。扱いがである。辺りに人影がないのを幸いに、二人はこっそり近づいて、筵をめくってみた。

「おい、この男って……」サブは驚愕した。
「何だ、サブの知り合いか?」と、トク。
「何いってんだ。この前、会ったばかりじゃないか」

 それは、サブたちが魚釣りをしていた時に、源八親分に追われていた男だったのだ。
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