8 / 20
魔除けと土左衛門①
しおりを挟む瓦版によると、浅草で再び、予言獣が現れたらしい。
「まもなく江戸で疫病が流行る」と、化け物は告げていた。この噂は瞬く間に広がったが、流行病の予防薬などありはしない。薬種問屋や生薬屋に駆けつける江戸っ子は一人もいなかった。
替わりに買い求めたのは、麻疹絵や疱瘡絵である。麻疹とは はしかのことであり、疱瘡とは天然痘のこと。どちらも難病とされ、大勢の命を奪っているので、江戸っ子に恐れられていた。
もし、麻疹や疱瘡に感染しても、できるだけ症状を抑えたい。おまじないでも何でも構わないから。そうした人々が頼ったのは、護符,魔除けとしての疱瘡絵、疱瘡絵である。
心配性の吉右衛門も御多分に漏れず、早速、護符を入手して店内に貼らせた。
サブは護符の中でも、とりわけ源為朝の絵に関心をもった。源為朝は疱瘡除けの神として崇められており、源為朝が疱瘡神を撃退する勇壮な姿が巧みに描かれていた。
元になっているのは、曲亭馬琴の読本『椿説弓張月』である。その後編に、源為朝が八丈島に上陸しようとした疱瘡神を退ける、という一話があるのだ。
源為朝は細かい部分まで、明確に描かれていた。その細くて力強い描線は、サブの心を鷲掴みにした。毎日、飽きることなく模写を繰り返して、その描線を自分のものにしようとした。
仕事の邪魔になるので、吉右衛門は最初こそ文句を言っていたが、そのうち客たちが褒めそやし、サブの絵を欲しがるようになったので、仕方なく黙って見守っていた。
「へぇ、なかなかのもんだね。まだ俺には及ばねぇが」
川べりでそう言ったのは、同い年のトクだった。彼も最近、武者絵の模写を始めており、二人は絵の腕前を競い合うようになっていた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
✖✖✖Sケープゴート
itti(イッチ)
ミステリー
病気を患っていた母が亡くなり、初めて出会った母の弟から手紙を見せられた祐二。
亡くなる前に弟に向けて書かれた手紙には、意味不明な言葉が。祐二の知らない母の秘密とは。
過去の出来事がひとつづつ解き明かされ、祐二は母の生まれた場所に引き寄せられる。
母の過去と、お地蔵さまにまつわる謎を祐二は解き明かせるのでしょうか。
PetrichoR
鏡 みら
ミステリー
雨が降るたびに、きっとまた思い出す
君の好きなぺトリコール
▼あらすじ▼
しがない会社員の吉本弥一は彼女である花木奏美との幸せな生活を送っていたがプロポーズ当日
奏美は書き置きを置いて失踪してしまう
弥一は事態を受け入れられず探偵を雇い彼女を探すが……
3人の視点により繰り広げられる
恋愛サスペンス群像劇
最終死発電車
真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。
直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。
外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。
生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。
「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
アンティークショップ幽現屋
鷹槻れん
ミステリー
不思議な物ばかりを商うアンティークショップ幽現屋(ゆうげんや)を舞台にしたオムニバス形式の短編集。
幽現屋を訪れたお客さんと、幽現屋で縁(えにし)を結ばれたアンティークグッズとの、ちょっぴり不思議なアレコレを描いたシリーズです。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
シグナルグリーンの天使たち
聖
ミステリー
一階は喫茶店。二階は大きな温室の園芸店。隣には一棟のアパート。
店主やアルバイトを中心に起こる、ゆるりとしたミステリィ。
※第7回ホラー・ミステリー小説大賞にて奨励賞をいただきました
応援ありがとうございました!
全話統合PDFはこちら
https://ashikamosei.booth.pm/items/5369613
長い話ですのでこちらの方が読みやすいかも
春雷のあと
紫乃森統子
歴史・時代
番頭の赤沢太兵衛に嫁して八年。初(はつ)には子が出来ず、婚家で冷遇されていた。夫に愛妾を迎えるよう説得するも、太兵衛は一向に頷かず、自ら離縁を申し出るべきか悩んでいた。
その矢先、領内で野盗による被害が頻発し、藩では太兵衛を筆頭として派兵することを決定する。
太兵衛の不在中、実家の八巻家を訪れた初は、昔馴染みで近習頭取を勤める宗方政之丞と再会するが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる