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魔除けと土左衛門①

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 瓦版によると、浅草で再び、予言獣が現れたらしい。

「まもなく江戸で疫病が流行る」と、化け物は告げていた。この噂は瞬く間に広がったが、流行病はやりやまいの予防薬などありはしない。薬種問屋やくしゅどんや生薬屋きぐすりやに駆けつける江戸っ子は一人もいなかった。

 替わりに買い求めたのは、麻疹絵ましんえ疱瘡絵ほうそうえである。麻疹とは はしかのことであり、疱瘡とは天然痘のこと。どちらも難病とされ、大勢の命を奪っているので、江戸っ子に恐れられていた。

 もし、麻疹や疱瘡に感染しても、できるだけ症状を抑えたい。おまじないでも何でも構わないから。そうした人々が頼ったのは、護符,魔除けとしての疱瘡絵、疱瘡絵である。

 心配性の吉右衛門も御多分に漏れず、早速、護符を入手して店内に貼らせた。

 サブは護符の中でも、とりわけ源為朝の絵に関心をもった。源為朝は疱瘡除けの神として崇められており、源為朝が疱瘡神を撃退する勇壮な姿が巧みに描かれていた。

 元になっているのは、曲亭馬琴の読本『椿説弓張月ちんせつゆみはりづき』である。その後編に、源為朝が八丈島に上陸しようとした疱瘡神を退ける、という一話があるのだ。

 源為朝は細かい部分まで、明確に描かれていた。その細くて力強い描線は、サブの心を鷲掴みにした。毎日、飽きることなく模写を繰り返して、その描線を自分のものにしようとした。

 仕事の邪魔になるので、吉右衛門は最初こそ文句を言っていたが、そのうち客たちが褒めそやし、サブの絵を欲しがるようになったので、仕方なく黙って見守っていた。

「へぇ、なかなかのもんだね。まだ俺には及ばねぇが」

 川べりでそう言ったのは、同い年のトクだった。彼も最近、武者絵の模写を始めており、二人は絵の腕前を競い合うようになっていた。

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