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見世物小屋④
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小屋を飛び出すと、そのまま境内を後にして、勝手知ったる裏通りを駆け抜ける。見世物小屋の連中は追いかけてくるほど暇でもなさそうだ。希之介は人の多い通りまでやってきて、
「ここまで来れば大丈夫だろう」と、サブを地面に下ろした。
「あーあ、もう、がっかりだよ」サブは地団駄を踏んでいた。
小屋の中で、サブははっきりと見たのだ。
薄暗い中だったし、泥まみれではあったけど、水槽に入っていたのは明らかに、人間の子供だった。あわただしく息を吸い込んでいたし、頭のてっぺんに皿などはなかった。そもそも、下帯をつけた河童などいやしないだろう。
「バカにしやがって。子供だましじゃないか」
まだ子供のくせに、サブはそう息巻いていた。
「けど、いい経験になったろう。これが世間ってやつだ。お天道様に顔向けのできない連中は、どこにでもいる」
「マレさん、源八親分に言いつけて、あんな連中、とっちめてもらおうよ」
「どうせ、後ろ暗い連中だ。いつまでも、あそこにいやしないさ。明日の今頃にはトンズラをかましているだろうな。小屋の作りなんて、やっつけ仕事もいいところだったろ」
「そう言われれば、そうだったかも」
「サブも、小屋の回りの空気がどんよりしているのに気づいたよな。あれはたぶん、人が大勢亡くなっているからだ。剣呑な奴らには関わらねぇのが無難だぜ」
それは、見世物小屋の連中が人殺しをした、ということなのか。背筋が冷たくなって、サブはそれ以上、希之介に問いたださなかった。
ただ、確かなことは、それ以降、サブが河童に興味を失ったことだ。
サブは後に浮世絵絵師になったのが、鬼や天狗、土蜘蛛は描いても、表情豊かな化け物や巨大魚は描いても、河童だけは描かなかったのだ。
それはもしかすると、子供の頃の苦い経験があったせいかもしれない。
「ここまで来れば大丈夫だろう」と、サブを地面に下ろした。
「あーあ、もう、がっかりだよ」サブは地団駄を踏んでいた。
小屋の中で、サブははっきりと見たのだ。
薄暗い中だったし、泥まみれではあったけど、水槽に入っていたのは明らかに、人間の子供だった。あわただしく息を吸い込んでいたし、頭のてっぺんに皿などはなかった。そもそも、下帯をつけた河童などいやしないだろう。
「バカにしやがって。子供だましじゃないか」
まだ子供のくせに、サブはそう息巻いていた。
「けど、いい経験になったろう。これが世間ってやつだ。お天道様に顔向けのできない連中は、どこにでもいる」
「マレさん、源八親分に言いつけて、あんな連中、とっちめてもらおうよ」
「どうせ、後ろ暗い連中だ。いつまでも、あそこにいやしないさ。明日の今頃にはトンズラをかましているだろうな。小屋の作りなんて、やっつけ仕事もいいところだったろ」
「そう言われれば、そうだったかも」
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ただ、確かなことは、それ以降、サブが河童に興味を失ったことだ。
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それはもしかすると、子供の頃の苦い経験があったせいかもしれない。
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