大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

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見世物小屋③

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 さほど待つことはなく、サブたちの順番がやってきた。木戸銭を払って、垂れ下がった茣蓙ござをめくると、そこは異空間だった。

 果てしない闇が広がっており、空気は重く湿り気を帯びている。足元もぬめっているので、サブは転ばないように注意しながら、おそるおそる歩を進める。

 ピチョンと水音がした。眼が暗さに慣れてくると、正面に水槽が置かれているのがわかった。もちろん、木でできたものだ。広さは畳三畳ほどだろうか。

 覗き込むと、泥まみれの水が溜まっていた。蓮の葉や水草が水面の半分以上を占めている。もし、水槽の中に何かがいても、はっきり見ることはできない。

 また、水音がして、水面がゆらいだ。赤ん坊の手のようなものが、水槽の縁をつかみ、すぐ水中に引っ込んでしまった。

「マレさん、今の見た?」
「ああ、何かいるようだ」

 希之介は腕組みをして笑っている。サブは水槽の縁をつかんで、よく見ようとすると、「おらぁ」と野太い声が上がった。震え上がって振り向くと、背の低い男が怖い顔をしていた。

「こんガキが、そばに近寄りすぎだっ」

 サブは思わず、希之介の陰に逃げ込んだ。

「すまんね。ガキのすることだから大目に見てやってくれ」

 希之介がやんわりとたしなめたが、背の低い男はジッとサブのことを睨んでいた。

「どこでとれた河童なんだい? 河太郎かわたろうとか水虎すいことか、いろいろ呼び名があるそうじゃないか」
「後がつかえてんだ。旦那、さっさと出ていっちゃくんねぇか」

「けど、肝心の河童様がよく見えないしなぁ」

 希之介は笑顔のまま、左肘を張ってたもとを広げた。そのまま軽口を続けながら、男に見えないように刀の鞘の先を使って、水面の蓮の葉や水草を脇によけている。

 すると、おぼろげに水中の影が見えて、ぷかりと顔が浮かび上がってきた。

「この野郎、何しやがんでぇ」

 男が気づいた時には、希之介はサブを小脇に抱えて、脱兎だっとのごとく逃げ出していた。
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