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見世物小屋②
しおりを挟むサブは何かに夢中になった時には、他のものが目に入らない。ただ、一心不乱にそれを追い求めるのだ。相手の都合などおかまいなしに。
「何が何でも、絶対に見たいんだよ」
希之介は小さく溜め息をつくと、
「しようがねぇなぁ」と腰を上げた。
こうして、二人は昼日中から、見世物小屋へと出かけることに相成ったのだ。
木々が鬱蒼と生い茂って、ただでさえ薄暗い神社の境内だったが、その片隅に立つ小汚い小屋の周辺は暗くて、どんよりと空気が澱んでいるようだった。
サブは背筋が寒くなって、無意識のうちに立ち止まっていた。もし、小屋の前に十数人ほどの人が並んでいなければ、回れ右をして帰っていたかもしれない。
「どうした、サブ。まさか、怖気ついたか?」
「へん、まさか、何か妙な感じがしただけだ」
「そうか。サブも感じるか」と、希之介がニヤリと笑う。「だがな、本当にやばいものはこんなもんじゃねぇぞ。真っ暗な穴がドロンとそこにあって、人の魂を吸い込んじまう。ガキなんざ一飲みにしちまうかもな」
「……マレさん、見たことあるの? 怖かった?」
「おら、いくぜ。サブは河童が見たいんだろう?」
小屋の脇に立てられた看板には、不気味な河童が描かれていた。毒々しい色使いで雰囲気を盛り上げようとしたのだろうが、それは改めてサブの好奇心を刺激した。
サブが怖気ついたのは、小屋をとりまく嫌な空気であり、いわば負のオーラである。しかし、それよりも河童に対する好奇心が勝っていたようだ。
サブは希之介の腕を引いて、順番待ちの行列の最後尾に並ぶのだった。
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