大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

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見世物小屋①

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 近くの神社に見世物小屋が来ているという。その上、河童を見られると聞いて、サブはいてもたってもいられなかった。河童の姿を二つの眼に、どうしても焼き付けたかったのだ。

「父ちゃん、河童だよ。その小屋に、本物の河童がいるんだよ」

 と、父親にまとわりつく。のんびり屋のサブには珍しく、ひどく興奮していた。
 しかし、家の中では依然として子ども扱い。父,吉右衛門は首を縦に振らない。

「サブ、一人で行くなんざ、もってのほかだ。大人と一緒になければ、絶対に認めねぇ。大事な息子が神隠しにあったらどうする」

 吉右衛門は日本橋で京紺屋〔染物屋〕を営んであり、日本橋では遣り手の商売人として知られていた。それは危ない橋は決して渡らない堅実経営によるものであるが、慎重の上にも慎重というより、実際には病的な神経質なのかもしれない。もっとも、裏を返せば、息子のサブに深い愛情を注いでいると言えるのだが。

 サブは頭を絞った。大人といっても店の者は皆、仕事に忙殺されており、付き添いをしてくれなど、とても頼めない。とっさに、脳裏に浮かんだのは、浪人の顔だった。

「マレさんと一緒ならいいでしょう。今すぐ頼んでくるからさ」

 そう言うと、父の返事を待たずに飛び出した。

 希之介は近所の長屋住まいである。一応、剣の腕が立つので、取り立て人や用心棒として吉右衛門が雇っているが、半分は社会奉仕、弱者救済というところだろう。腰に差しているのは竹光であるというのが、もっぱらの噂だ。

 何はともあれ、サブは希之介の元に駆けこむと、彼の想いを一気にまくしたてた。

「サブ、もうわかったから、そうわめかないでくれ。ここは壁が薄いんだ」
「じゃ、マレさん、一緒に行ってくれるのかい。今すぐ行ってくれるかい」
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