大江戸あやかし絵巻 ~一寸先は黄泉の国~

坂本 光陽

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少年と浪人③

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「いや、殺しも火事も全部ひっくるめて、化け物のせいにしちまえって了見だろう」と、希之介。「それで怪しまれたわけだから、何やってんだって話だがな」

「妙なことを考える下手人だね」と、サブは笑う。

 黙って聞いていたトクも笑いながら、
「確かに、妙な顔つきをしていたなぁ」と、浅草紙を掲げた。

 そこに描かれていたのは、さっきの男の似顔絵だった。

「おっ、こりゃうめぇな。下手人野郎に瓜二つじゃねぇか」と、希之介が手を叩く。

 こうなると、サブも負けてはいられない。眼を閉じて、さっきの男を脳裏に浮かべると、さらさらと一気に描き上げた。

「サブもうめぇな。いかつい顔に、たくましい身体つきが、まるで生き写しだぜ」そう言って、希之介は満面の笑顔を浮かべた。「そうだ。二人とも、絵をもらっても構わねぇか?」

 もちろん、二人に異存はない。

 ちょうどそこに、源八が悪態を突きながら戻ってきた。どうやら、下手人をとり逃したらしい。希之介は駆け寄り源八の労をねぎらうが、逆に「この役立たずめ」と怒鳴られてしまう。

 下手人の追跡を途中で脱落した件だろう。希之介と源八の間には因縁があるらしい。何か弱みでも握られているのか、希之介は以前から源八の言いなりである。今も頭を下げて、詫びている。そんなにへりくだらなくていいのに、とサブは眉をひそめた。

 希之介はサブとトクの描いた絵を見せて、源八に何事か説明をしていた。二人の絵を使って、下手人を捜し出そうというのだろう。

 今でいう、似顔絵捜査である。防犯カメラの画像ではわからない具体的な特徴をとらえているため、どれだけハイテクが進んでも似顔絵捜査は有効である。

 それは昔、「人相書にんそうがき」と呼ばれており、専門家によると、寛保2年〔1742〕に整備されたものらしい。ただ、江戸時代の「人相書」は似顔絵ではなく、顔つきや身なりの特徴の箇条書きにしたものだった。「人相書」に絵が盛り込まれるのは、明治時代になってからである。

 この時、文化5年〔1808〕。したがって、サブとトクの描いた似顔絵は、「人相書」の先駆けだといえるだろう。
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