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イケメンディレクター④
しおりを挟むさて、審判の時がやってきた。
私は期待と不安に包まれて、イケメンDの引き締まった口が開くのを待つ。今は、小会議室に二人きり。私が作り上げた入魂資料に、目を通してもらっているのだ。ワクワク。
「御苦労様、たった1日でここまでやってくれるとは思わなかった。君に頼んで大正解だったよ。これからはボクの右腕になって、知恵を貸してくれないか」
なぁんて、言われたらどうしましょ。考えただけで頬が火照ってしまう私です。
イケメンDの感想は、たった一言だった。
「却下」
哀れ、入魂資料はテーブルにポイッと投げ出され、私の背負っていた「ワクワク」の文字にはヒビが入り、あっけなく崩壊した。ど、どうして?
バラ色の笑みを浮かべたまま、イケメンDは言う。
「これって雑誌記事をまとめただけじゃない。これじゃ、君の感性が全く見えないよ」
「感性、ですか?」
「昨日言ったでしょ。ボクらが求めているのは新鮮な素材と切り口だって。こういう借り物の情報じゃなくて、君自身のフレッシュな目と耳で、とびきりのネタを探してほしいんだ」
「……はぁ」
「わかっていると思うけど、ただ何かを大量に集めているだけのマニアじゃ、番組は全然成立しないんだよ。オタクっぽい連中は散々やりつくしたし、難解な専門知識が必要なお勉強系や、刀剣や瓦版といった歴史系も数字がとれないことがわかっている。では、次に取り上げるべきなのは、何か? 何なのか?」
「……」
「そこで、君の出番だ。若い女性ならではの視点で、ボクたちのインスピレーションをビンビン刺激してくれないかな。こんなマニアさん、今までは取り上げていないけどいかがでしょうか、という感じにさ」
イケメンDの言葉は続く。
「いや、何も特殊なことや難しいことを求めているわけじゃない。君が面白いと思うマニアさんで充分なんだ。ただね、誰もがすぐに思いついて視聴者にとってありふれたもの、よその番組でやりつくして手垢のついた情報は、ネタとして価値が低いというか……」
「……」
「はっきり言うと、あまり価値がないんだよ」
ああ、やっぱり価値がなかったのか。
さらば、私の入魂資料。さらば、一日分の作業。
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