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情けは人のためならず③

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「堪忍な。私、あなたに嘘をついてもうた。孫と約束したなんて真っ赤な嘘。大嘘や。あの店のカレーパン、私の大好物なんや。いい年こいて、あの日はどないしても我慢できなくなってもうて。自分でも笑ってまうわ。いえ、笑い事やないわね。ほんまに堪忍な」

 深々と頭を下げるマダム。呆気にとられている私。
 マダムはペロッと舌を出した後、桐生さんに向き直ると、キリリと表情を引き締めた。

「話はすっかり聞かせてもろうたで。晋之介、ゴチャゴチャ言うとらんと、この人の力になっておあげ。ええな、わかったな」
「……師匠」と、表情を曇らせる霊能者。

 マダムは、デスクの地球儀に近づいて、手でクルクルと回す。
 その表面にあるのは、海と陸地じゃなくて星座だった。正確には、地球儀ではなくて、天球儀というらしい

「わからへんのか? これは、晋之介の転機や。星の巡りにそれがよう出とる。思い切って新しい世界の飛び込んでみぃ。あんた、拝み屋として、一皮むけるで」
「……」沈黙の霊能者。

 会話が途切れたので、私は思い切って訊ねてみる。
「あの、師匠と桐生さんのご関係は?」
「この晋之介はな、昔、私の元で占い師の修行をしとったんや。素質はあんのに、えらく物覚えが悪い子でな。ほんまに苦労したわ。ちょっと叱りつけたら、ワンワン泣いて、逃げ出しよってからに」

 えーっ、この性悪の桐生さんが? ちょっと想像がつかない。
「古い話を。それ、小学生の頃の話じゃないですか」
「最近では随分えろうなって、先生、先生って呼ばれているらしいけど、私にとっちゃ、あんたは一生洟垂れ小僧のまんまや」

「もう勘弁して下さいよ、師匠」
「で、どないするんや?」
「……」
「わしに逆らう気やないやろうな。テレビに出んのか出ぇへんのか、どっちやねん、はっきりしぃや」

 桐生さんは、子供のように、口を尖らせて、
「わかりましたよ。テレビに出ればいいんでしょ」
「だそうや」と、豪快と笑うマダム。

 私は慌てて二人に頭を下げた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 まさに、急転直下の出来事だった。
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