裸のプリンスⅢ【R18】

坂本 光陽

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ラブ・スパイラルⅢ③

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 ごく平凡に暮らしていけたら、僕はそれ以上のことを望まない。若者らしくないと思われるだろうが、どうせ死ぬときにはプラマイゼロになっているだろう。

 幸運と不運は代わる代わるにやってくる。僕は悲観論者でも楽観論者でもないつもりだが、トラブルの芽は見過ごしてはおけない。

 千鶴の件は落ち着いたが、マヤさんの問題が残っている。セックス中に避妊具が破れて、うっかり中出しをしてしまった件だ。(「ラブ・スパイラル②」参照)

 しかし、これは今更考えても仕方がない。アフターピルの効果に期待しながら、マヤさんとマメに連絡を取り合っている。そんな風に僕の日常は過ぎていく。

 日頃の行いがよいせいだろうか、2週間後、緊急避妊が成功したことを知った。マヤさんは幸い、アフターピルの副作用に悩まされることはなかったらしい。

 僕はホッと胸をなでおろし、改めてお詫びの食事に誘った。すっかり寒くなったので、週末に、何かあたたかいものを食べに行く予定である。

 何はともあれ、当面の懸案事項はすべてクリアした。つもりだったのだ。

 僕は予定通りタクシーを拾って、渋谷から上野へと向かう。初めてのお客様との待ち合わせ場所が、上野のシティホテルだったのだ。

 まさか、この後、とんでもない出来事が待っているなんて、思いもしていなかった。

 最近のシティホテルは防犯上の理由から、宿泊客以外の人間を部屋に入れないことがある。業界ではプレイのために、ダブルの部屋をとってもらうこともあるとか。

 ただ、『ナイトジャック』の場合、お客さんにプレイに適したホテルを紹介している。だから、僕は受付をスムースに通過し、御指定の部屋に辿り着くことができた。

 初めてのお客さんだから、少なからず緊張感がある。僕のルックス、体格、雰囲気が、先方の期待を裏切っていないことを心から願う。

 僕は部屋のチャイムを鳴らす。ドアの向こうでも、お客さんが緊張しているはずだ。やがて、ロックが外されて、ドアがゆっくり開かれる。

「いらっしゃい、待っていたよ」

 一瞬わけがわからず、僕は言葉を失った。

「どうしたの?そんなところで突っ立ってないで、さっさと入りなさいよ」

 そう言って、千鶴は細い背中を向けた。この半月で少し痩せたみたいだ。元々、美少女の千鶴だけど、痩せて凄みを増したように思える。

「おい、どうしてだよ。どうして、おまえがここにいる?」

 追いかけてリビングに入ると、千鶴は口元だけで笑った。

「それはもちろん、私がシュウくんを指名したから。あ、そうそう、夏休みのバイト代が残っていたから、ファミレスのバイトは一週間で済んだよ」
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