裸のプリンスⅢ【R18】

坂本 光陽

文字の大きさ
上 下
48 / 75

ラブ・スパイラル⑨

しおりを挟む

 2時間後に、常連のお客さんと渋谷で落ち合うことになっている。仕事に支障がない程度に軽く、何か腹に入れておこうと思う。

 そうだ。真由莉さんを食事に誘ってみようか。そう思いついたのは、オートロックの自動ドアを抜けて、エントランスホールに出たところだった。

 ふと、集合メールボックスの脇に、若い女性が膝を抱えて座っているのに気付いた。長い黒髪が垂れて、顔を覆い隠している。ファッションを見る限り、中高生ではなさそうだ。すぐ脇を通り過ぎようとした時、彼女がすっと顔を上げた。

 心臓が止まるかと思った。それは、千鶴だったのだ。

 僕と真由莉さんは恋人同士のように腕を組んでいる。内心、あたふたしていると、千鶴は怒った顔で立ち上がり、僕を睨みつけてきた。

「シュウくん、その人は誰? 今まで何をしていたの?」

 喉の奥から絞り出すような声音だった。ちなみに、千鶴は僕の本名で呼びかけたのだけど、それでは混乱するので、ここはシュウと書かせてもらう。

 真由莉さんは気配を察して、僕と組んでいた腕を外し、横にぴょんと飛びのいた。

「あ、誤解しないでね。彼と私は、ただの遊び友達。あなたが思うような関係じゃないから」
「私が思うような? それって、どういうことですかっ」

 真由莉さんの弁明は明らかに、焼け石に水だった。

「チィちゃん、どうして、こんなところにいるんだよ。まさか、偶然ってことはないよな」

 僕が話題を逸らしながら、真由莉さんに目配せを行う。勘の良い彼女は後ろを振り返らずに、さっさとエントランスホールを後にした。

「そんなの、シュウくんを見かけたからに決まっているじゃない」

 まさかと思ったが、ここで3時間近く待っていたらしい。

「答えなさいよ。さっきの女と付き合ってるの?」
「落ち着いてくれ。彼女の言った通り、ただの友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

 こういう時は嘘も方便だろう。しかし、それで納得するような千鶴ではない。

「どういうことよ。わかるように説明しなさいよ」

 千鶴はヒステリーを起こしかけていた。早くも爆発の一歩手前だ。こういう時は本来、泣かれても騒がれてもいいから、思い存分、吐き出させるべきだろう。

 しかし、僕には時間がなかった。

「悪いけど、急ぐんだ。日を改めよう。後で、必ず連絡を入れるよ。だから、今日のところは勘弁」

 マンションの外に出ると、駅に向かって走り出した。

「待ちなさいよ、逃げる気っ」

 千鶴が追ってくるが、僕は振り向かない。美少女の怒った顔は、僕が何よりも苦手とするものだった。
しおりを挟む
『裸のプリンスⅢ』の御閲覧をありがとうございました。シュウの物語・第3弾はいかがだったでしょう。もし、お気に召したのなら、「お気に入り」登録をお願いいたします。どうぞ、お気軽に楽しんでください。前作の『裸のプリンス』、『裸のプリンスⅡ』、『愛のしたたる果実【R18】』、『ブラックアイドル【R18】』も合わせて、よろしくお願いいたします。
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

赤毛の行商人

ひぐらしゆうき
大衆娯楽
赤茶の髪をした散切り頭、珍品を集めて回る行商人カミノマ。かつて父の持ち帰った幻の一品「虚空の器」を求めて国中を巡り回る。 現実とは少し異なる19世紀末の日本を舞台とした冒険物語。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

処理中です...