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中年クレーマー②

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 ほどなく、校長先生は朝礼で、全校生徒に注意を促した。登下校において、他人のアパートや家の敷地内には入らないこと。君たちは遊んでいるつもりでも、近所の人たちには大変な迷惑になるので、絶対に入らないように指導した。

 ただ、校長先生から強い口調で言われたのにも関わらず、それで反抗心を刺激された生徒がいた。

 例の五十嵐君である。彼はアパートの中庭に入り込み、足音を忍ばせて中堀さんの部屋に近寄っていく。気づかれないように窓の下を無事通過できたら、五十嵐君の勝ち。気づかれたら負け。そんなたわいないゲームである。

 どこが面白いのだろうと思うけど、彼にとっては刺激あふれる度胸試しなのだろう。

 こんなことを述べているのも、実は先ほど、五十嵐君がアパートから逃げる場面に出くわしたからだ。彼は奇声を発しながら逃げ去っていった。後を追った中堀さんが飛び出してきて、あやうく僕たちとぶつかりそうになった。

 中堀さんは僕たちをにらみつけ、
「今、逃げて行った奴は何ていう名前だ。隠し立てをするんじゃねぇぞ」

 僕が何も言えないでいると、ウルマが落ち着いた口調で、
「背中しか見ていないのでわかりません。たぶん、上級生だと思いますけど、ほら、あっちに逃げていきましたよ」と言うと、五十嵐君の逃げた方を指さした。

 中堀さんは後を追いかけていったが、とっくに見えなくなった彼を捕まえるのは、おそらく無理だろう。

 ウルマは肩をすくめて、意外なことを言った。
「シロ、あの人も〈夜の校長〉事件に関わっていると聞いたら、君は驚くかい?」
「ええっ、あの人って、中堀さんのこと?」

「ああ、あの中年クレーマーも一役かっているはずなんだ。今はまだ、確証を得られていたから、無責任なことは言えないけどね」

 いくら問い詰めても、ウルマは笑ってばかりで、何も答えない。目の前に餌をちらつかせて、こちらが興味をもったころで、するりとかわす。腹立たしいかぎりだけど、いつもこの調子である。いちいち怒っていたら、ウルマとは付き合っていられない。
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