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リベンジ・ラブ㉕

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 昨年、警察に目をつけられて、休業に追い込まれた時は落ち込んでいたけれど、すっかり回復したらしい。

「ひょっとして、『ナイトジャック』再開ですか?」僕が訊ねると、彼女は笑顔で頷いた。

「元々少なかった女性向けクラブが減少して、今、ニーズが極限まで高まっているからね。満を持しての再起というわけ。シュウのこと、必死で捜しまわっていたのよ」

 なるほど、僕の帰還はジャスト・タイミングだったらしい。ココナさんの話をたっぷり聞いた後、頃合いを見て、肝心の話を切り出した。

「さっき六本木に行ったら、『キャッスル』が閉まっていました。あの、レイカさんは今……」

「ああ、スパッと店を畳んだみたいだね。マープロ関連の問題で業界の信用を失ったから、経営的に難しくなったのかな。莫大な売上を見込める店なのに、もったいない話だと思うけど」

「『キャッスル』がなくなるなんて、考えてもいませんでした」

「でも、その原因の一端は、シュウにあったんでしょ。レイカにしてみたら、飼い犬に手を噛まれたみたいな」と、悪戯っぽく笑うココナさん。

「それはそうなんですけど」

「あのカズまでからんでいたなんて、驚いたよ」

 そう、ココナさんはカズを知っている。確か、『ナイトジャック』開業前に、スカウトしようとしたこともあったはずだ。

「それで、レイカさんは今、どうしているんですか?」
「さぁ、恋人の仕事をサポートしているんじゃないの。確か、キャバクラのチェーン店だっけ?」

 それは初めて聞く話だ。レイカさんに50代のステディがいることは知っていたけれど。

「つれないな。シュウ、私なんかよりレイカの元で働きたいってわけ?」ココナさんは僕を睨み付ける。

「いえ、多大な迷惑をかけておいて、それはないです。もちろん、ココナさんのところでお世話になりますよ」

 実は、これからのことは何も考えていなかったけど、生きていくためにはおカネがかかる。僕のできることと言えば、一つしかない。

 僕はドクターチェック(性病の有無など)を受けて、問題なしの結果が出ると、すぐにコールボーイとして『ナイトジャック』に復帰した。

 ただ、僕に逆恨みをしている残党を警戒して、ココナさんはHPでは告知をしなかった。その代わり、元常連さんたちにメールを送信しただけである。

 大変有難いことに、僕の予約申し込みが殺到したらしい。何も言わずに消えたのに、じっと待っていてくれたのだ。地方の女性たちは孤独と性欲をもてあましていたが、東京の女性たちも変わらないようだ。そんな方々の御期待と御要望には全身全霊で応えようと思う。
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