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リベンジ・ラブ⑩
しおりを挟む僕は自分でも思考が素直、というか単純だと思う。
その上、頑固なので、他人の意見に耳を貸さない。一言でいえば、我がままだ。こうと決めたら、とりあえず試してみる。そういうパターンが多い。
何もせずに迷っていることは最悪だし、トライアル・アンド・エラーを繰り返していれば、決断力,判断力の自信にもなる。
しかし、今回の判断に関しては、反省しなければならない。新幹線や飛行機の最終便に間に合いそうもない時、ほとんどの人間は高速バスを選ぶ。新しくて巨大な高速バスターミナルがあれば、逃亡者がそこに向かうのは自明の理だったのだ。
「すいません、××さんですよね?」
いきなり、本名で声をかけられたので、つい立ち止まってしまった。振り向くと、見知らぬ美少女である。20代前半の彼女が笑顔で僕を見つめていた。
「いえ、ちがいますよ」
そう言って、立ち去ろうとしたけれど、すでに男たちに囲まれていた。ヤクザではないが、「半グレ」と呼ばれる若い連中だ。あっという間に、両腕を抱え込まれてしまった。
「ここで騒いだり暴れたりしたら、容赦なくへし折るぞ」
「脅しは不要だよ。××くんは頭がよさそうだもの」
美少女の言う通り、僕に抵抗の意志はなかった。
僕を取り囲んだ形で、一行は移動する。階段を降りると、大通りにSUVが停まっていた。男たちに挟まれた状態で、僕は後部座席に押し込まれる。SUVは美少女の指示で、速やかに発車した。
「××くん、もしかして、渋谷のレストランでまいたつもりだった?」
「……」
「ハイテク時代、追手から逃れたいなら、まずスマホを捨てないと。GPSで居場所を特定できることぐらい、知っているでしょう? あと、クレジットカードの使用は厳禁。途中、コンビニに立ち寄ったでしょ。今後は気をつけることね」
なるほど、僕は相当に無防備だったらしい。
「××くん、意外と落ち着いているね。こういう場合は、あれこれとくだらない質問をされてウンザリするものだけど」
移動中の車中で話しているのは美少女だけだ。「半グレ」たちは見かけによらず無口で、リーダーに忠実なしもべのようだ。よし、大丈夫。僕は落ち着いている。
「いくつか質問をさせてもらっていいかな?」と、美少女に訊いた。
「どうぞ、何なりと」
「この車が向かっている先は、仲村誠さんのマンションかな? それとも、仲村さんの所属事務所かな?」
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