57 / 82
リベンジ・ラブ③
しおりを挟むヒカルさんも同じ女性として、被害者たちに共感していた。僕たちは誠心誠意を尽くして、彼女たちとコミュニケーションをとった。編集部の男どもは無神経に急かしてきたが、先方の信頼を得るためには、どうしても時間をかける必要がある。
僕たちは彼女たちが納得するまで、とことん付き合った。マスコミに対する偏見を取り除くことが何よりも大変だった。幸い、ヒカルさんのキャラクターとメイさんのサポートもあって、彼女たちの風向きは次第に変わってきた。
頑なな態度が氷解してきたのだ。僕たちが彼女たちから取材協力の了承を得たのは、年が押し迫った頃だった。
年明け早々、僕たちは長峰夏鈴さんから、思わぬお年玉をもらった。カズがスマホで撮影した仲村誠のセクハラ罵倒映像が、彼女の元で保管されていたのだ。
例のセクハラ事件の後、長峰さんはカズと一緒に、仲村誠のマンションを出た。その際、万が一の保険として、問題の映像をカズから転送してもらったという。
これは予想外だった。誌面の説得力を出すために、どうしても欲しかった映像(写真)である。カズが現場で撮影したセクハラ罵倒シーンは、想像以上に衝撃的な内容だった。仲村誠の自己中心性と欲望が暴走していて、まるでケダモノのようだった。
思わぬお年玉という言い方をしたが、写真週刊誌にとっては、まさに僥倖だった。戦場写真を例に挙げるまでもなく、インパクトのある象徴的な写真は、たった一枚で十万文字の情報に勝る。
ヒカルさんの話では、このお年玉によって編集部が沸き返ったらしい。編集長からは「金一封どころじゃない。これは社長賞ものだ」と言われたとか。記事の扱いが明らかに1ランク上がったのだ。
僕は責任の重さを感じた。セクハラ罵倒事件が公になった時、世間が匿名被害者をさがし始めるだろう。僕たちは決してネタ元を明かしてはならないし、彼女たちの防波堤にならねばならない。
ゲス不倫の例を挙げるまでもなく、この手の報道は一体なにが起こるのか想像もつかない。ヒカルさんも言っていたが、編集部の思惑とはまったく違った部分で火がつき、テレビなどの他のマスコミを巻き込んで大騒動になることがあるという。
今回の問題もそうなってしまうかもしれない。長峰さんたちの信頼に応えるためにも、僕たちは慎重の上にも慎重を重ねなければならない。マスコミの玩具にされたあげく、被害者までバッシングを受けるような事態は最悪である。考えただけで憂鬱になってしまう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる