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淫らなアクトレス③

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 人通りが少ないとはいえ、どこで誰が見ているかわからない。僕たちは前後に距離をとって、お友達のマンションへと移動した。なるほど、近い。神社から歩いて数分もかからなかった。

 途中、信号待ちの際に、レイカさんにメールで報告をしておいた。プライベートであっても、お客様に会うのだ。報告の義務はあるし、万一、面倒なことになった際の予防線でもある。

 一等地にふさわしいタワーマンションだったが、部屋に入ると奇妙な感覚に襲われた。デジャブ。初めて来た場所なのに見覚えがある、という例の感覚だ。最低限の家具と調度があるだけで、生活感はまるでない。

 何てことはない。『ナイトジャック』所有の部屋に雰囲気が似ているのだ。

「遠慮なく入って。ここは業界のレンタルルームのようなものだから。カップル専用のね」
「なるほど、そういうことでしたか」

 業界ニーズの高いプライベート空間。いわゆる、〈やり部屋〉ということだろう。空気が澱んでいたので、とりあえず窓を開けて、部屋の空気を入れ替えた。

 窓の外はすっかり暗くなっている。僕たちの視線がからみつく。こうなると、言葉は不要になる。僕はカーテンを閉めて、明かりを消す。メイさんのペースにはまったみたいだけど、ここは流れに身を任せることにしよう。

 僕は彼女を優しく抱きしめて、唇を交わす。互いの身体をまさぐり合う。僕たちのキスは、たちまち情熱的になってしまう。

 メイさんがワンピースを床に落とすと、僕の前で膝をついた。

「ちょっと待ってください」

 僕のバナナを取り出そうとしたので、慌てて制止する。

「だぁめ、ここまで来てお預けなんて、絶対に許さないから」
「違います。自分で脱ぎますから、少しだけ待ってください」
「さっさと脱いで。見ていてあげる」

 上気したメイさんの前で、僕は一枚一枚脱いでいく。シャツに綿パン、靴下。そして、ボクサーパンツ。最後の一枚をとると、僕のすべてが露わになる。

 もちろん、たくましく屹立したバナナのことである。

 メイさんが手を添えて、愛おしげにキスをする。ねっとりを舐め上げた後、あっという間に、あたたかな粘膜にとらえられてしまう。出かける前にシャワーを浴びてきて正解だった。

 かつてはオーラルなセックスは苦手だったが、お客さんの嗜好を尊重すれば、そんなことは言っていられない。言ってみれば、お客さん第一がポリシーなのだから。

 僕はメイさんにすべてをゆだねる。彼女のファンが見たら殺されてしまいそうな行為を味わう。他人には決して見せない淫らな顔と行為を僕は独り占めにする。


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