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Kファイルの衝撃⑥
しおりを挟む数日後、例の下僕くんから連絡をもらった。ほとんど話したことはないのに、「飲みに行きませんか」という誘いだった。
おそらく、仲村さんの差し金で、スマホ映像を消去しろというのだろう。それぐらい見当がつく。当然、シカトを決め込んだ。身の危険を感じ始めたのは、それからだ。
「ぶっ殺すぞ」というメールを送りつけられ、歩道橋の階段と信号待ちの交差点で、立て続けに後ろから突き飛ばされたのだ。
だが、へそ曲がりの俺には逆効果である。セクハラ激昂映像をプリントアウトして、仲村さんに送り付けてやった。
「もう俺に関わるな。マスコミに渡すぞ」という警告を添えて。
それから俺は、元の流浪生活に戻った。警察の眼をかいくぐる上に、仲村さんにも狙われぬよう気を配りながら暮らしている。
ただ、彼を金づるにしたおかげで、そこそこの蓄えができた。ほとぼりが冷めるまで、地方で暮らすのも悪くない。無駄遣いをしなければ、しばらくは暮らしていけるだろう。
気がかりなのはメンタル面だ。自分では能天気のつもりだったけど、不眠症に悩まされている。もう長いこと、熟睡をしていない。頭がぼんやりとしているし、焦りと不安感にとりつかれている。
独り言をするようになったし、俺、やばいんじゃないか、とさえ思っている。
あちこちの地方都市を回ったけれど、どうも落ち着かない。しみったれた街並みやしょぼくれた住人の表情は、見ているだけで気がめいってしまう。やはり、東京が性に合っている。
そういえば以前、とある殺人犯が離れ小島で暮らしていたのに、地域住人の通報であっけなく捕まった、というニュースがあった。木の葉を隠すなら森の中。逃亡者は都会の人波に紛れるのが一番だ。
たとえ物価が高くても、俺自身、都会の方が暮らしやすい。そんなわけで、東京に帰ってきた。蓄えが残り少なくなってきたし、久し振りに会いたい人がいたせいもある。
いや、東京に帰ってきた一番の理由は、その人に謝りたかったからだ。それが誰だか、わかりますよね。俺はマジ、シュウさんみたいになりたかった。
何があってもブレないで、周囲の影響を全く受けずに、自分の信じるままに生きる。そんな真っ直ぐな生き方をしたかった。
俺なんかブレまくりです。周囲の影響を受けて、あっちフラフラ、こっちフラフラ。付き合う連中によって、人生を左右されてしまう。もしかしたら、器用に見えていたかもしれないけど、俺ほど不器用な人間はいないだろう。
だから、自分の中に太い柱をもっていて、真っ直ぐ生きていける、そんなシュウさんに俺は憧れていたんだ。
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