裸のプリンスⅤ【Ｒ１８】

Ｋファイルの衝撃④

　シュウさんは、長峰夏鈴を知っているだろうか？

　僕は彼女を知らなかったが、テレビＣＭなどで見たことがあったかもしれない。本来は愛くるしい笑顔が印象的な、とびきりの美少女アイドルである。

　その長峰夏鈴が、仲村さんの前でベソをかいていた。それまでの優しいお兄さんキャラから、横暴チンピラキャラに一変したのだから、夏鈴の驚きと恐怖はよくわかる。

　その表情の変化を楽しんでいるのだから、仲村さんはマジ趣味が悪い。このまま夏鈴を全裸にひんむいて、ケダモノのように征服欲を満たすつもりなのだろう。

　仲村さんが僕に向かって、スマホを投げてよこした。美少女アイドルのレイプシーンを撮れ、というわけだ。どうやら、下僕くんの都合がつかず、急遽カメラマンとして僕を呼びつけたらしい。

「後で、夏鈴を抱かせてやる」と言われたが、丁重に遠慮させてもらう。そうした行為のむなしさはよく知っている。これでも、セックスのプロなので。

　僕のそっけない反応は、仲村さんの御機嫌を損なったらしい。

「アイドルを抱けるなんて機会は二度とないぞ」

　恩着せがましく言われたけど、おあいにく様、アイドルは何回も抱いている。芸能界御用達の店で働いていた時、何度も彼女たちの相手を務めていた。アイドルといっても性欲はあるし、その本質は普通の女の子と何ら変わらない。

　ただ、無理やり行為に及ぶのは、俺のポリシーに反する。

　夏鈴は全裸になるように命じられていた。顔を伏せたまま一枚一枚と脱いでいく。僕はスマホのレンズを向けていたのは、彼女の裸体ではなかった。ささやかな抗議として、獣の姿を撮っていたのだ。

　もちろん、鼻の穴をふくらまし、イケメンの面影を失った獣の表情だ。

　アイドルの顔を写さないように構図に注意しながら、仲村さんの行動と言動を逐一録画する。アルコールの影響もあるのだろう。普段の彼から想像もつかない粗野で下品な部分が露わになっていた。

　こういうギャップと意外性は、間違いなくマスコミの大好物だろう。

　夏鈴の脱ぎ方がゆっくりだったこともあり、売れっ子芸能人の裏の顔をたっぷり録画することができた。

「そのあたりで止めておきましょうか」ポンと投げつけるように、俺は言った。

　予想外だったのだろう。仲村さんは口をポカンと開けている。俺が夏鈴の服を拾い上げ、彼女に押し付けたところで、ようやく反応した。顔を真っ赤にして汚い言葉を吐き始めた。

　コップやらリモコンやらをこっちに投げてきたけれど、酔っ払っているので、あさっての方向に飛んでいく。もちろん、その一部始終も録画した。彼のファンが見たら、さぞ幻滅することだろう。