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欲望のキャッスル⑯
しおりを挟むそこまで言われたら、もう何も訊くことはできない。仕方ないので、報告書に目を通して、不明な点を尋ねることにした。
こういう場合、僕は消去法をとるようにしている。言うまでもないが、カズは元コールボーイであり、元〈半グレ〉メンバーでもある。
まず、〈半グレ〉がらみについては、おそらく可能性はない。麻布署が充分に捜査して裏付けをとった、とサキさんが言っていた。あの言葉に嘘はないと思う。そもそも、被疑者が〈半グレ〉の一員なら、即刻逮捕しているはずだ。
それと合わせて、宮下さんの言ったことを思い出す。カズが自分への捜査をかわすために、警察関係の裏情報を使おうとしていた、という仮説である。サキさんの口から聞いた時、最初は荒唐無稽な話だと思っていたが、今では僕の中で重要な位置を占めている。(裸のプリンスⅣ「濡れ結ぶ」参照)
ただ、それが何なのか、今それがどこにあるのか、どちらも不明のままである。宮下さんから、それらしきものを預かっていないか、と訊かれたが、まるで心当たりはない。コインロッカーの鍵や貸金庫の暗証番号かもしれないし、USBメモリーやSDカードのようなものかもしれない。
「昔なら、さしづめフロッピィディスクかな」そう言って、ヒカルさんは笑う。「ただ、重要なのは媒体の種類ではなく、その中身。それが資料なのか映像なのか、まるでわからないけど、まるでスパイ映画みたいな話だね」
その言葉を聞いた時、僕の脳裏に閃くものがあった。
スパイ映画でお馴染みのガジェットに、身の回りのものにさりげなく隠された記憶媒体、というものがある。具体的にいえば、ヒロインが身についていたロケットの中、胸ポケットに刺されたボールペンの中……。
「あれ、シュウくん、どうかした?」
「ヒカルさん、僕ができることを一つ思いつきました。今は何とも言えませんが、試してみる価値はあると思います」
「なぁにそれ? もったいぶらないで教えてよ」
「いえ、もったいぶっているわけじゃなくて、何の根拠もない、ただの思いつきです。口に出すのも恥ずかしいぐらいの話ですよ」
これは言い訳でない。心からそう思う。
中間報告と引き換えという約束だったので、僕は少しだけインタビューに応じた。ただ、コールボーイの日常を話すには、真っ昼間のカフェはふさわしくない。周囲の眼と耳が気になってしまう。
ヒカルさんもこの後の予定があったので、仕切り直しをすることを約束し、早々に解散とあいなった。
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