23 / 82
欲望のキャッスル⑭
しおりを挟む5分もたたずに返信があった。
「了解です。会えるのが楽しみです」
ヒカルさんとの出会いは逆ナンだったけど、なりゆきで今は連絡を取り合う関係である。互いの利益は一致しているのだ。
ヒカルさんの求めているのは、若い男性のセックス観。とりわけ、コールボーイである僕への密着取材である。そして、僕の求めているのは、カズの轢き逃げ事件の真相もしくは裏側。そのとっかかりが得られれば、と思っている。
いつものように、僕は待ち合わせ時間の10分前に到着した。ヒカルさんは時間ぴったりに現れた。
「久し振りだね。元気そうで何よりね」
「はい、身体だけが資本ですから」
言葉短く挨拶を交わし、僕たちは駅近くのカフェに移動した。他人の耳を意識する話になりそうなので、店内がすいているのは好都合だ。飲み物を運んできたウェイトレスが離れると、ヒカルさんは笑顔で口火を切った。
「早速だけど、中間報告をさせてもらうわね」
そう言って、A4サイズの報告書を僕の前に滑らせてきた。驚いたことに、一枚目に書かれていた名前は、僕のよく知っている人物だった。
『キャッスル』オーナー,白石麗華(本名:××××)。
レイカさんがカズを殺した? その発想は僕の背筋を凍らせた。思い込みというものは本当に恐ろしい。報告書は関係者の供述をまとめたものであり、レイカさんはその中の一人にすぎなかった。
もちろん、僕がかつて憧れていたレイカさんである。僕とカズの元の雇い主。もっとも僕は出戻りをして、今も再びお世話になっているわけだけど。
そもそもカズを轢き殺したのは、都内で数百台が走っている国産の人気車種で、色は赤だ。(麻布警察署・交通課のサキさん情報)断じて、レイカさんが運転しているレクサスではない。
僕がそんな考えに囚われている間も、ヒカルさんは淡々と報告を進めている。客観的な説明を心がけているせいか、断定的な言葉は避けているように思えた。
報告書によると、レイカさんは警察の事情聴取で、カズから職場復帰を打診されたこと、借金を申し込まれたことを明かしていたらしい。レイカさんはどちらも丁重に断っていて、トラブルに発展することはなかったという。
レイカさんが被疑者であるとは警察も考えていない様子なので、僕は胸を撫でおろした。それにしても、一枚目に目を通しただけで、ヒカルさんの情報収集力の高さを認めざるを得なかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる