上 下
22 / 82

欲望のキャッスル⑬

しおりを挟む
「冬子さん、とても素敵でしたよ」僕は優しく髪をなでて、彼女が落ち着くのを待つ。「セクシーで魅惑的で、最高のセックスでした」

「……私も最高に、よかった」そう言って、両手を顔から外してくれた。

 僕と冬子さんの眼が合う。彼女の求めているものが伝わってきた。僕たちは唇を交わした。情熱的に舌を絡め合い、しっかり抱き合った。

 僕たちは汗をぬぐい、水分を補給し、もう一度キスを交わす。冬子さんの表情は、バラ色に輝いていた。時間はありあまっているが、彼女は充分に満足したらしい。

「ねぇ、シュウくん、今度何か書いてみない?」

 冬子さんは女から編集者に戻った。こうして、僕たちのセックスは静かに幕を閉じる。

「書くって、小説家になれってことですか?」

「大袈裟に考えることはないのよ」と、朗らかに笑う。「誰だって一本の小説は書けるというし、難しそうだなと思ったら、エッセイでもいい。日頃感じていることを素直に書き起こしてみるの」

 僕は苦笑を浮かべて、返答に代える。

「本が売れない時代なんでしょう? 僕の書いたものなんか、誰も関心をもたないんじゃないですか?」

「そうかな、私は関心があるよ」冬子さんは意外と粘る。「例えば、シュウくんの日常生活とか、興味津々なんだけど」そう言って、にっこり微笑む。

「そうですね。では、気が向いたら、少しずつ書き留めておきますよ」
「約束よ。私が一番目の読者ね」

 僕たちは〈指切りげんまん〉をする。こんなことをするのは小学生以来だ。しかし、こんな約束が予想もしていなかった新たな展開につながるのだから、人生というものは本当にわからない。

 世の中には不思議なことがある。シンクロニシティ(共時性)は最たるものの一つだろう。編集者の冬子さんに会ったすぐ後に、編集者の方からメールをいただいた。

 以前、北千住でナンパされて即ベッドを共にした、ヒカルさんである。(「コールボーイの転機」参照)冬子さんは大手出版社勤務で、ヒカルさんはフリーランスという違いはあるけれど、独創性と探究心をもっている点は共通していた。

「これまでに調べたものの中間報告をしたいと思います。日時については、シュウくんの御都合に合わせます。どうぞ、御検討ください。ヒカル」

 簡潔な文面だった。レスポンスも簡潔を心がけることにしよう。

「メールを拝見しました。明日13時、待ち合わせ場所は、北千住駅・中央改札口でいかがでしょうか? シュウ」


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R-18】デッカイ幼馴染のバレンタインデー大作戦!!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:11

お見合い結婚が嫌なので子作り始めました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:522

短編小説 ドジっ子さちこが義母だったら。。。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

俺 玖美さんについて行く 一緒に幸せになろう!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:1

淫靡な香りは常日頃から

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:14

一妻多夫制

SF / 完結 24h.ポイント:489pt お気に入り:32

ママ友は○友

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:14

楽しい交尾 放出うなぎ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:0

処理中です...