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コールボーイの転機⑨
しおりを挟む「連絡先の交換の前に、いくつか確認させてください」僕は居住まいを正した。「こうして取材を重ねても、無駄足に終わることもあるんですよね?」
「ええ、残念ながらね」
「取材相手と会うだけでおカネはかかるだろうし、普通に考えたら赤字ですよ。それでいいんですか? あ、誤解しないでください。別におカネが欲しいわけじゃないですから」
不遜に聞こえるかもしれないが、もし今、無職になっても、数年暮らせるだけの蓄えはある。
「私の仕事は元々そういうもの。興味深い人に会うためなら、費用と手間暇は惜しまない、としか言いようがないわね」
「目先の損得勘定ではなくて、先行投資ということですか」
「理解が早くて助かるね。シュウくん、頭がいいから」
僕は素早く頭を巡らせる。ヒカルさんと会うことで、僕にメリットをもたらすもの。もちろん、セックス抜きで。答えはすぐに出た。
「ヒカルさんは情報収集のプロですよね。警察方面の情報も強いですか?」
「まぁ、そこそこ強いかね。若い頃に警察の番記者をして、夜討ち朝駆けとかしていたからね。でも、どうして?」
「僕がヒカルさんの取材を快く受けるための交換条件ですよ。できる範囲で構いませんので、調べてほしいことが一つあるんです」
もちろん、カズの轢き逃げ事件のことである。本当に轢き逃げだったのか、口封じの殺人だったのか、現時点では不明だが。ヒカルさんは僕の説明を聞いた後、スマホでネット検索を試みて、一分もしないうちに、カズの新聞記事を見つけ出した。
「なるほどね。この事件に裏があったのかどうか、というわけね」
「カズには家族も親類縁者もいません。もし、裏があった場合、無念を晴らす人間は僕しかいないんです」
素人の僕では手を出しかねて、ずっと棚上げにしていたが、言葉にしてみると極めてシンプルだった。「無念を晴らす」その一言に尽きた。
正直いって、カズの一件は手を出しかねていた。何をすればいいのか、何から始めればいいのか、わからなかったせいもある。関り合いをもつことで、厄介なことに巻き込まれる心配もある。
ただ、思い悩み続けているのは、僕らしくない。何か行動を起こしてみよう。ヒカルさんに話すことで一歩踏み出してみる。そう決意すると、頭の中がスッキリした。
「うん、事情はわかった。とりあえず、馴染みの情報筋にあたってみるよ」
「よろしくお願いします」
僕たちはメルアドの交換を済ませ、ラブホテルを後にした。すでに陽は大きく傾き、辺りは黄昏色に染まっていた。
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