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コールボーイの転機②
しおりを挟む僕はその時、ユニクロの店頭で夏物のシャツを眺めていたのだ。
「いえ、見ていただけですから」
立ち話をしている横を買い物客が次々と通り過ぎていく。平日の昼下がりだけど、ルミネの店内は客が多い。
「とりあえず、場所を移しましょうか」
さりげなく彼女の腰を抱いて、エレベーターホールに向かう。北千住駅と連絡している3階まで降りて、自動ドアを抜ける。ルミネから目的地まで、ドア・トゥ・ドアで5分とかからなかった。目的地とはラブホテルである。
僕たちは部屋に入ると、ソファに並んで腰を下ろした。互いに自己紹介をした。仮名であることを前提に、彼女はヒカルと名乗り、僕はシュウと名乗った。
「誤解しないでね」ヒカルさんは言った。「こんなことをしたの、私、初めてだから」
聞けば、ヒカルさんは編集者であるらしい。女性週刊誌や写真週刊誌の編集部を渡り歩き、今はフリーランスで仕事をしている。僕に声をかけたのは、そもそも若い男性のセックス観について下調べをするためだったという。
そういえば、元常連の冬子さんも編集者だ。彼女は文芸専門だったけど、独創性と探究心をもっている点は共通している。
「じゃあ、これは取材の一環ですか? プライベートじゃなくて」
ヒカルさんは少し考え込み、
「うーん、仕事とプライベート半々かな。公私混同はよくないわね」
「ひょっとして、しばらく御無沙汰だったので、試してみたくなったとか?」
彼女は少し慌てて言った。
「そんなことはないけどね」
冗談のつもりだったけど、どうやら的を得ていたらしい。
「シュウくん、若いのに女の扱いに慣れているみたい」
「そんなことはないです。心臓バクバクですよ」
彼女の手をとって、僕の胸に触れさせた。若い男の身体は久し振りなのだろう。彼女の眼は情欲に染まっていく。
「キスしてもいいですか?」
僕は返事を待たずに、軽く唇を触れさせた。二度目は少し長く。間を開けて、三度目は情熱的に。僕は覆いかぶさるように、彼女の細い身体を抱きしめる。
彼女は少し抵抗したけれど、すぐに力を抜いた。唇を交わしていると、二人とも息が弾んでしまう。意外なことに、いつもとは違うリビドーの高まりを実感した。
思えば、これは仕事ではなく、プライベートなのだ。自己責任で裁量の余地は大きい。
ただ、自分勝手な行為は慎まなければならない。若さに任せて暴走し、なし崩し的に関係をもつのは、僕の美学に反する。プロとしてあるまじき行為だ。
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