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GカクテルⅢ⑨

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「何なの? 二人だけでわかって、嫌な感じ。キューブド・アイスの中味が、お祖父ちゃんから父さんへのメッセージって、どういうこと?」

 父さんが私の前にタンブラーを滑らせた。

「自分の眼で確かめるんだな」

 カクテルが黒いので見えにくいけど、キューブド・アイスの中に、何かある。

 目を凝らすと、それは黒い獣だった。指先ほどの小さな人形だけど、それが何であるかは想像がつく。

 待てよ。ということは、もしかすると……。私はカクテルグラスの白いシャーベットに視線を落とす。ハッとして桐野さんの顔を見上げると、スプーンを差し出してくれた。

「ちょっと失礼します」

 スプーンを使って、シャーベットの中を探ってみる。いささか行儀が悪いけど、確認せずにいられない。思った通りだ。カクテルグラスの真っ白な雪の中に、ゴジラが埋もれていた。

「ミノリさん、砂糖菓子の人形ですから、シャーベットが溶けないうちに取り出した方がいいですよ」

 私は忠告に従って、ゴジラ人形をカウンターに置いた。よく見ると、特徴的な背びれや太い尻尾など、細部まで丁寧に再現されている。

「以前、ゴジラ映画の入場者プレゼントで、こうしたゴジラ人形が配られたことがあります。それを参考にして作ってみました」

「えっ、これ、桐野さんの手作りなんですか?」

 何て器用な人なんだろう。いや、それより気になることがある。

「桐野さん、氷や雪にゴジラを閉じ込めることに、どんな意味があるのか、教えてください」

「ん、ミノリ、この【Gカクテル】の意味がわからないのか?」代わりに、父さんが応えた。「ちょっと考えれば、すぐわかるだろ」

「わからないわよ。どうして、氷と雪に閉じ込めるの?」

「ゴジラ映画を観ていれば、わかるはずだ」

 これには、カチンときた。
「父さん、私は誰のせいで、ゴジラ嫌いになったか覚えてる!?」

「まぁまぁ、僕もミノリさんには説明が必要だと思います。よろしければ、雪村さんからお願いできますか?」

「しようがないな。【Gカクテル】には二つの意味がある。まず、ジオラマ的な仕掛け。雪村隆一郎はカクテルで、ゴジラ映画のワンシーンを再現したんだ」

「はぁ!? それ、どういうこと?」

「ゴジラ映画第二作『ゴジラの逆襲』のラストシーンだ」

 父さんのレクチャーによると、ゴジラは雪山に追い込まれたところで、自衛隊の攻撃を受けて、氷と雪の中に閉じ込められるらしい。氷詰めにされて、強制的に活動停止状態にされるわけだ。
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