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GカクテルⅢ⑧
しおりを挟む「僕が注目したのは、液体窒素の超低温です。カクテルのポイントの一つが冷たさであることは御存知でしょう。普段は氷を使っていますが、どんな工夫をこらしても、時間が経てば溶けてしまいます」
「そうですね。カクテルの味が薄まってしまいます」
「ですが、液体窒素なら、そんなことは起こりません。-196度の超低温は一瞬で、お酒も果汁を凍らせます。材料のうまみを損なわないのです」
なるほど、そういうメリットがあるのか。
蛇足だけど、液体窒素に触れると、火傷を負うことがある。その点はドライアイスと同じだ。くれぐれに取り扱いは慎重に。以上、蛇足終わり。
「それに、液体窒素は【Gカクテル】に、最適な材料でもあるんですよ」
そうだ。忘れていた。目の前にある二つのカクテルは、【Gカクテル】だった。
でも、どこがG、つまりゴジラなんだろう?
桐野さんは父さんの前に、タンブラーの黒いカクテルを滑らせた。こちらは液体窒素ではなく、氷を使っている。
カクテルグラスの白いカクテルは、私の前にやってきた。液体窒素によってシャーベット状になっている。
つまり、フローズン・カクテル。普通なら、バー・ブレンダー(カクテル作りに用いるミキサー)にクラッシュド・アイスと材料を入れ、粉々になるまでかきまぜて、シャーベット状にする。でも、桐野さんは液体窒素によって、ベースのお酒も果汁ジュースなどの材料もすべて凍らせたのだ。
それにしても、新雪のように真っ白だ。キラキラと美しく輝いている。
隣では、父さんがタンブラーを掲げてから、黒褐色のカクテルを一口飲んだ。
「うん、口当たりがいいね。気をつけないと、飲みすぎてしまうな」
「おそれいります」
「独特な黒さに炭酸の泡。桐野さん、コーラを使ったね。ラム&コークは昔よく飲んだものだけど、これは全然クセがなくて、スッと染み込んでくる」
「はい、定番カクテルでいうなら、キューバ・リバーに近いです。ベースのお酒はホワイト・ラム。本来はライムジュースだけですが、今回はグレープフルーツをブレンドしたオリジナルジュースです」
「ところで、このキューブド・アイスの中味だ。これが親父,雪村隆一郎から大学生だった僕へのメッセージ、という理解でいいのかな」
おっと、そうだ。お祖父ちゃんは父さんの夢を思いとどませるために、【Gカクテル】を考案したということだった。
確か、ゴジラのような怪獣映画を撮るのが、当時の父さんの夢だったとか。
「はい、あくまで僕の推測ですが、おそらく、そういうことではなかったか、と思います」
桐野さんと父さんは微笑みを交わしている。
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