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GカクテルⅢ①
しおりを挟む目覚めると、頬が濡れていた。どうやら、私は眠りながら泣いていたようだ。
内容は思い出せないけれど、酷い夢を見たのは確かだろう。夕べはウジウジと考えてしまい、なかなか寝つけなかった。そのせいか、身体はずっしり重いし、少し頭痛もする。
顔を洗ってダイニングキッチンに行くと、父が新聞を読みながらトーストをかじっていた。雪村家の朝食は基本、早く起きた方が用意する。週に5日は私がつくるのだけど、今日は寝坊をしてしまった。
「おはよう、父さん。ト-ストだけじゃ足りないでしょ。ハムエッグでもつくろうか?」
「何だ、ミノリ。今朝は、ひどい顔だな」
うら若き乙女に、何てデリカシーのない言葉。
鏡を見たばかりなので、顔がむくんでいるのは知っている。でも、せめて言葉ぐらい選んで欲しい。いつもならガミガミ噛み付くところだけど、朝から疲れそうなのでやめておく。
父はコーヒーを飲み干すと、新聞を丁寧に折り畳んだ。
「おい、予定通り、今夜、【銀時計】に顔を出すぞ。仕事終わりというのは、23時30分ぐらいでいいんだったな。桐野さんによろしく言っといてくれよ」
ん、どうして? 小首を傾げてから、ハッとした。
ああ、そうか、【Gカクテル】のお披露目か。桐野さんの問題に気をとられて、1週間前に交わした約束をすっかり忘れていた。我ながら、情けない。トーストをかじりながら、しばし反省。
メイクと身支度をすませ、さぁ、そろそろ出ようか、という時に、一本の電話があった。後見人の相葉さんからだった。
「ミノリちゃん、1時間後、凮月堂に来られるか?」
「はい、大丈夫です。問題はありません」
経験上、朝一番に来る電話に、良い知らせはほとんどない。不安がムクムクとふくらんだ。
それでも、いつものように六本木駅まで歩き、日比谷線に乗った。銀座駅で降りて、みゆき通りと並木通りの角にある凮月堂のカフェに着くまで、ドア・トゥー・ドアで40分もかからない。
平日の午前中ということもあり、店内フロアのお客さんはまばらである。相葉さんは奥のテーブル席で、雑誌に目を落としていた。背筋がピンと伸びて、相変わらず若々しい。70を過ぎでも、アロハシャツがよく似合っていた。
「おはようございます」
笑顔で挨拶をすると、相葉さんが顔を上げた。
「おう、早かったな」
表情から、良くない話だ、と察しがついた。
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