銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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GカクテルⅡ⑨

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「やっぱり、桐野くんがらみよね」
「はい」
「何となく想像はつくけれど」リオナさんは苦笑した。「ズバリ、桐野くんの頑なさに振り回されている、ということね」

 さすが、付き合いが長いだけのことはある。私はコクンと頷くと、言葉を選びながら話し始めた。事はプライベートに関わることなので、「桐野さんの家族の問題」という表現に留めた。

 でも、それだけで、リオナさんは察したらしく、「ははーん」という表情をつくった。

「ミノリちゃん、桐野親子は昔から、激しくやりあっているからね。それこそ、伊吹親子より反りが合わない。部外者が仲を取り持とうとしたら、そりゃへそを曲げるわよ」

「親子関係がうまくいっていないのは、何が原因なんですか?」

「さぁ、そこまでは知らない。10年前か20年前に、ボタンの掛け間違いがあったんじゃないかな。あそこの親子関係は、中東情勢のように複雑だから」

 はぁ、聖地エルサレムの奪い合いに匹敵する複雑さですか。
 とりあえず、桐野親子が頑固者同士であることは確からしい。

「別々の時には大人しい〈黒い獣〉が、二人一緒になると化学反応を起こすんだよ。二匹とも暴れまわって、毒を吐き散らす」

「〈黒い獣〉、ですか?」
「そう、私とミノリちゃんの中にもいるはずだよ。〈黒い獣〉のようなもの」

 制御不能の感情とか、生理的嫌悪感ということだろうか。

「桐野くんが前に、親子だからって、無理に分かり合う必要はない、って言ったの、覚えてる?」
「ええ、リオナさんの前で【龍馬カクテル】を披露した時ですね」
「あれが、桐野くんの結論だよ」

 桐野さんの言葉を正確に思い出してみる。確か、こう言ったのだ。

“親子だからといって、無理に分かり合う必要はありません。考え方、感じ方は、人それぞれです。血のつながりがあるだけで、親子も他人も同じです”

 分かり合う必要はない。親子も他人も同じ。桐野さん、本当にそれでいいと思っているの?

 いいわけがない。確信をもって言える。絶対いいわけがない。

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