上 下
85 / 100

GカクテルⅡ⑧

しおりを挟む

 でも、悪くないのに謝るのはおかしな話だ。ただの御機嫌取りは簡単に見透かされるし、そんなことはしたくない。これは、女の甘えだろうか。

 後見人の相葉さんから言われたことがある。

「女だからという甘えは捨てろ。ビジネスに男も女もない。結局は人と人だ。シビアな姿勢で取り組まないと、誰も相手にしてくれなくなるぞ」

 甘えてはいないつもりだ。今も、これからも。

 では、桐野さんは真面目に働いているのだから、プライベートに踏み込むべきではないのだろうか? うーん、よくわからない。

 でも、仕事と家族を秤にかけたら、家族の方が断然重いと思う。それだけは確信をもって言える。桐野さんの抱えている問題を見過ごすことはできない。余計なお世話と言われてしまえば、それまでだけど……。

 今夜のところは、大人の対応を心がけたけど、このままでいいわけがない。どうすればいいのだろうか。

 銀座駅まで歩いて日比谷線に乗り込んだ。しばし揺られてから六本木駅で降りても、よい考えは浮かばない。誰かに相談できればいいのだけど。

 深夜になっても、六本木交差点は大賑わいだ。どこから湧き出てくるのだろう。様々な国の人たちが集まって、辺りには様々な外国語が飛び交っている。

 いつもなら、あまりの騒々しさに耳を塞ぎたくなるけれど、今はその喧騒が心地好い。人の波に乗って外苑東通りを歩き始めたところで、「ミノリちゃん」と声をかけられた。

 振り向くと、伊吹リオナさんだった。ああ、前にも確か、同じようなことがあった。あれは【龍馬カクテル】の時、桐野さんと言い争った後だっけ?

「リオナさん、こんばんは」
「ちょっと付き合いなさい」

 リオナさんは私の腕をつかむと、ぐいぐい引っ張っていく。

 芋洗坂を降りたところに、遅くまで営業しているコーヒーショップがある。そこに入った。甘いアイスカフェオレを飲むと、驚くほどリラックスできた。

「ミノリちゃん、真っ青な顔をしていたから、さっきはびっくりしたよ」

「へへ、すいません。普段は深く悩まない方なのに、今日はちょっと考え込んじゃって。もしかしたら、パニックを起こしていたのかも。慣れないことはするもんじゃありませんね」

「悩みって仕事の件? あ、聞いてもいいのかな?」

「全然かまいません。誰かに聞いて欲しかったぐらいです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

王妃さまは断罪劇に異議を唱える

土岐ゆうば(金湯叶)
恋愛
パーティー会場の中心で王太子クロードが婚約者のセリーヌに婚約破棄を突きつける。彼の側には愛らしい娘のアンナがいた。 そんな茶番劇のような場面を見て、王妃クラウディアは待ったをかける。 彼女が反対するのは、セリーヌとの婚約破棄ではなく、アンナとの再婚約だったーー。 王族の結婚とは。 王妃と国王の思いや、国王の愛妾や婚外子など。 王宮をとりまく複雑な関係が繰り広げられる。 ある者にとってはゲームの世界、ある者にとっては現実のお話。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...