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GカクテルⅡ②

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「実は、桐野さんのお父さんが身体を壊されて、新宿の大学病院に入院しているの。詳しいことはわからないけれど、あまりよくないみたい」

「……そうなんですか」びっくりした。そんなの、初耳だ。

「彼とお父さん、以前から折り合いがよくなくて、ずっと断絶状態が続いているの。大学時代からだというから、もう十数年になるのかな。それにしても、お父さんが危ない状態なのに、一度も顔も見せないなんて……」

「ちょっと待ってください。お父さんがそんな状態なのに、桐野さんはお見舞いに行っていないんですか?」

 高宮さんは頷いた。

「考えられないでしょ。関係がこじれているにしても、肉親が入院しているのに。でも、彼ならありうる話よ。ほら、彼ってあくが強いというか、職人気質というか、融通の利かないところがあるでしょ。一度言い出したらテコでも動かないとか、他人の言葉には耳を貸さないとか。あなたは一緒に働いているからわかると思うけど」

 うん、それはよくわかる。むしろ、わかりすぎるぐらいです。

「私、彼の妹さんと面識があるから、頼まれたのよ。でも、私だって彼から見たら煙たい存在だし、あっさり無視されてしまうと思うの。だから、申し訳ないんだけど、あなたの方から説得してもらえないかしら」

 とてもデリケートな話だった。家族の問題は部外者にはうかがい知れない部分がある。生まれた時から一緒に暮らしてきたのだ。時間の積み重ねが、要らぬ怨恨を生み出す場合もあるのだろう。

 ただ、高宮さんの話を聞く限り、桐野さんの対応はひどすぎるように思える。

「お話はよくわかりました。できるだけ早く、お父さんの元に行くように、私の方から話してみます」

「ありがとう。もし、彼が言うことを聞かないようだったら、遠慮なく連絡して。その時は及ばずながら、援護射撃をするから」

 高宮さんからメモ用紙を受け取る。お父さんの入院先の住所と連絡先が明記されていた。

【オリンポス】を出ると、まっすぐ【銀時計】に向かった。桐野さんのお父さんのことを考えると、気が急いて、自然と速足になった。

 私だって、父との関係が良好とは言えない。毎日のように、くだらない口喧嘩をしている。バカバカしいことに、料理の味付けや洗濯物の畳み方、電球の交換までが、争いの種になる。

 50代の父親が今更、口うるさい性格を直してくれるはずもない。(そんなことされたら、逆に心配してしまう)大抵の場合、私が折れて、広い心で受け止めている。

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