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Gカクテル⑫
しおりを挟む繰り返しになるけれど、改めて言っておいたほうがいいだろう。
雪村隆一郎の編み出したオリジナルカクテルは、【雪村カクテル】と呼ばれる。荒唐無稽な伝説がつきまとい、カクテル業界では半ば伝説と化している。そのくせ、レシピはおろか、ヒントすらほとんど残されていないのだ。ある意味、ミステリアスな存在である。
【雪村カクテル】の中で最も有名だったのが、前に述べた【3秒カクテル】だ。わずか3秒で完成したという謎は、先日、桐野さんの洞察力と直感力,創造力によって鮮やかに解明された。
【雪村カクテル】の再現を目指している私にとって、幸先の良いスタートを切られたと思う。
そして今夜、父さんの口から、新たな【雪村カクテル】が飛び出した。【Gカクテル】については、初めて耳にした。Gとは、やはりゴジラを指すのだろう。
ただ、父さんだって、お祖父ちゃんの話として聞いただけで、実物のカクテルを見てはいない。誰一人、見ていない。
【Gカクテル】のレシピを知っているのは、祖父,雪村隆一郎だけである。そのレシピを読み解こうなんて、本来なら雲をつかむような話だ。だけど、私には頼れるバーテンダーがいる。
私はカウンターの中の桐野さんに向かって、
「桐野さん、どう思いますか?」
「とても面白いと思います。【Gカクテル】を見ることができないのが、残念でなりません。話だけではなく、ぜひ実物を見たかったですね」
私は溜め息を吐く。
「父さんがあっさり、夢をあきらめなければよかったのに。そうすれば、お祖父ちゃんが目の前で作ってくれたし、【Gカクテル】の手がかりもいっぱいあったはずだよ」
「おいおい、何を言い出すんだ。それは僕の落ち度なのか」
「落ち度じゃないけど、もう少し粘って欲しかったな」
私は再度、溜め息。
「雪村さんのお話を総合すると、どうやら、これまでの【雪村カクテル】とは一線を画したもののようですね」と、桐野さん。
「そうですね。手がかりは、今きいた父の話しかありません。あまりにも情報が不足しています」と、私。
「ええ、おっしゃる通りです。もっとも、いずれの【雪村カクテル】の解読も、一筋縄ではいきません。そこが逆に、ミステリアスであり魅力的であったりもします。あと断言できるのは、大学生だった雪村さんに対して、全身全霊で作り上げようとしていたことですね。これは間違いないと思います。ただ、いささか気にかかる点があります」
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