銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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Gカクテル⑩

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 父さんがカクテルグラスを掲げた。

「桐野さん、ハリウッド版・第2作『ゴジラ』の放射熱線も、これに似た色でしたね。外国人の監督でも、これまでのゴジラ映画に対するリスペクトが、映画の端々から感じられた。ゴジラファンにはうれしい限りですよ」

「そうでしたね。だから、日本でも受け入れられたんでしょう」

 桐野さんの受け答えは短く簡潔だ。父さんが深く頷く。

「実は、僕はサブカルの第一世代というか、元祖オタク世代なんですよ」父さんは笑顔で語り出す。「子供の頃に怪獣ブームがあって、ゴジラにガメラ、ウルトラマン、さらに仮面ライダーやアニメの宇宙戦艦ヤマト,高校生で機動戦士ガンダム,大学生の時、9年ぶりにゴジラ復活。そうそう、今の会社に新卒で入った時には、〈新人類〉呼ばわりだったなぁ」

 父さんは酔いが回ったのか、いつもに増して雄弁だ。

「今は宮仕えですが、若い頃は作り手になりたい時期もあったんだ」
「えっ、そうなの? 私、そんな話、一度も聞いたことないよ」思わず、口を挟んだ。
「そんなの当たり前だ。これまで話したことがなかったからな」父さんは朗らかに笑う。

「大学時代は仲間を集めて、自主制作映画を作ったこともあった。8ミリの方が色はきれいだと言うヤツもいたが、僕らが選んだツールはビデオだった。当時、ハンディタイプのビデオカメラが登場して、素人でも撮影が簡単になったからね。素材はS-VHSというコンパクトなビデオテープだった。NGになったら、すぐに巻き戻して撮り直せばいい。画期的だったな。8ミリより手軽だし、コストもかからない。ダビング編集の際に画質が落ちるけど、デメリットはそれぐらいだったな」

 初めて聞く話は、次から次へとあふれだし、父さんの話はとどまることを知らない。

 私が生まれた時、父さんはすでに会社員だった。物心のついた頃から、毎朝スーツを着て出かけていく姿しか知らない。当たり前のことだけど、父さんにも大学時代があったんだ。

「父さんたちって、どんな映画を撮っていたの?」
「話の流れから怪獣映画といいたいところだが、ホラーアクションだった。『13日の金曜日』と『エルム街の悪夢』を足したような作品だ」

 父さんによると、どちらも80年代ホラーのヒット映画らしい。

「ビデオレンタル店が雨後のタケノコみたいに急増して、B級ホラーというジャンルがもてはやされた時代だった」

 B級ホラーねぇ。絶叫とともに血がドパーッとか? 蛇足だけど、私はゴジラと同じぐらいホラーが苦手だ。なぜ、正視できないものを映画にするのか、私には理解できない。正直言って、ホラーというジャンルの存在からして理解不能である。

「惨殺シーンのために徳用ケチャップの血のりにまみれたり、上映に間に合わせるために撮影と編集に明け暮れたり。今も徹夜が苦にならないのは、あの頃のおかげだな。撮影を通じて女子大の女の子と仲良くなったり、ダビング販売の売上げでコンパをしたり、毎日が夏休みみたいに楽しかった」
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