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Gカクテル➈

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「降参。そのきれいな色って何?」
「桐野さん、カクテルの色で再現できますか?」

「そうですね。冬場なら耐熱グラスを使って火を点す、という方法もありますが……。季節に合わせて、さわやかな感じにしてみましょう」

 桐野さんは今、「火を点す」と言った。ということは……。
「わかった。父さん、ゴジラが口から吐く火の色でしょ。赤かオレンジね」

 父さんは苦笑しながら、首を横に振る。
「どうして、おまえはそんな風にせっかちなんだ。桐野さんがこれから再現するんだから、それを待っていればいいんだ。ミノリ、少しは空気を読んでくれ」

 カチンときた。父さんの言った言葉をそっくりそのまま返してやりたい。この場で空気を読んでいないのは、父さんの方じゃないの。

「それにドラゴンじゃないんだから、〈火を吐く〉というのは違う。ゴジラが吐くのは放射熱線、もしくは放射火炎だ。これぐらいは一般常識だぞ」

 そんなこと、知っているわけがない。でも、桐野さんが頷いたように見えて、ちょっぴり疎外感。

「はいはい、わかりました。おとなしくカクテルを待ちますよ」

 桐野さんはシェーカーのボディに、氷とテキーラを入れて、さらにブルー・キュラソー、ライムジュースを注いだ。これらをハードにシェークする。長くて逞しい腕が勢いよく「く」の字を描く。

 迫力のあるシェーキングに、父さんは驚いていた。

 スノースタイルのカクテルグラスに、シェーカーの中味が注がれる。途中から色味の見当はついた。それはやはり、とてもきれいなブルーだった。いや、ブルーというより、水色に近いかもしれない。

 でも、これがゴジラの色?

 桐野さんは父さんと私の前に、カクテルグラスを滑らせた。桐野さんと眼が合う。口元を歪めて微笑んだ。お嬢さん、このカクテルがわかりますか? そんな表情だ。

 その笑い方には慣れたけど、同じ笑うなら、白い歯を見せて、口角を上げてほしいな。
カクテルに口をつける。グラスのエッジについた塩とカクテルが、口の中でブレンドする。テキーラ・ベースだけあって、もちろん辛口。やはり強烈な味わい。

「桐野さん、これは定番カクテルですか?」
「ええ、ブルー・マルガリータといいます。その名の通り、マルガリータのブルー版です」

 父を見ると、口に合ったらしい。美味しそうに飲んでいる。

「きれいな色だけど、これがゴジラの吐く火の色?」と、訊ねてみる。
「だから、火じゃなくて、放射熱線だ。赤い炎より青い炎の方が高温だろ。一般常識じゃないか」

 なるほど、その通りだけど。その吐き捨てるような言い方、いつもカチンとくる。

「制作スタッフによると、放射熱線の色には根拠があるそうですよ。原子炉の炉心に発生するという、チェレンコフ光からきているそうです」

「へぇ、科学的根拠があるんですね。そうか、水色というより、青白いんだ」私はに落ちる。

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