銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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Gカクテル⑥

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「はい、父も同じことを言っていました。桐野さん、よく御存知ですね」

「ゴジラは世代を超えて人気のあるキャラクターですから、お客様との会話によく出てきます。確かに、映画ごとにゴジラの外見は異なります。子供の味方になってからは、可愛いルックスになりましたね」

「そうなんですか?」

「制作スタッフは新作を手がける度に、試行錯誤を重ねているそうですよ。設定から作風まで、まるっきり異なることもあります。常に新しいゴジラを生み出そうとしていた結果でしょうね」

「手間がかかっているんですね」

「その時々の新鮮な感覚や価値観を取り入れているので、60年以上が経過してもコンテンツとして古びないのでしょうね。昔も今も変わらず、ゴジラは幅広い層から愛されています」

 私は苦手だけどね。もちろん、そんなことはおくびにも出さない。

「1964年生まれのミノリさんのお父さんと、僕は20歳ほど年が離れていますね。当然、ゴジラに対するイメージは違いますし、話の食い違いが出てくるかもしれません。でも、そういったジェネレーションギャップまで含めて、会話を楽しめれば最高ですね」

「そうですね。父もきっと喜ぶと思います」

 それにしても桐野さん、四季報の内容ならわかるけど、ゴジラにまで詳しいなんて、本当に驚かされる。でも、桐野さんにそう言えば、たぶん、こう返ってくるのだろう。

「大したことではありません。バーテンダーの嗜みですよ」と。

                  ×

 朝の口振りでは必ず来ると思っていたのに、いつまでたっても父は現れなかった。

 ドアのアンティーク・ベルが鳴る度に、私はビクッとしてしまう。正直いって、あまり精神的健康によろしくない。

 終電の時間が迫ってきて、最後のお客様も帰られた。さすがに、もう来ないだろう。そう思って、店仕舞いを始めかけた時、父がひょいとやってきた。

「やぁ、来たぞ」と、笑顔で片手を上げる。
「父さん、随分おそかったね」

「何いっているんだ。おまえが朝、予約がいっぱいで、今日は混むって言ったんじゃないか。他の店で時間をつぶしてから、やってきたんだ」
「ああ、そうだったね」

 何だ、そうこうことか。朝の話はしっかり、耳に入っていたんだ。
 桐野さんの視線を背中に感じた。とりあえず、ここは形式通りに。

「父さん、紹介するね。こちら、バーテンダーをしていただいている、桐野さん」

「はじめまして、桐野黎児です。ミノリさんにはいつも、お世話になっております。今日はお越しいただき、ありがとうございます」いつもの笑顔を浮かべて、長身を折り曲げた。

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