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Gカクテル②

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 父が珍しく、私を書斎に招き入れた。
「ミノリ、キンゴジもいいけど、やっぱりモスゴジが最高だよな」
 長々と熱弁をふるわれたけど、少しも共感はできなかった。

 どうやら、ゴジラの外見は作品ごとに異なるらしい。父の言葉を要約すると、キンゴジとモスゴジはファンの人気を二分しているとか。ちなみに、キンゴジとは巨大猿キングコングと戦ったゴジラで、モスゴジは巨大蛾モスラと戦ったゴジラ。モスゴジは父が生まれた年に公開されたゴジラでもある。本当にどうでもいいことだけど。

 父の熱弁は続く。
「初代ゴジラはおまえの職場,銀座と、深い縁があるんだぞ」

 最初に作られたモノクロのゴジラは、芝浦から上陸し、新橋を経由して、銀座で暴れまわったという。ということは、初めて銀ブラをした怪獣なのか。

 ゴジラは映画の中で、銀座の象徴,和光の時計塔とも対面したらしい。

「結局、あの時計塔を木っ端微塵に破壊するんだが、そのきっかけが時計の鐘の音なんだ。怪獣とはいえ生物だ。音に反応するなんて、たまらなくリアルな描写じゃないか」と、父は力説する。

 はいはい、そうですか。
 私の薄い反応におかまいなく、父は語り続ける。

 父の生まれた1964年は東京オリンピックの開催された年だけど、父にとっては2本のゴジラ映画が公開された方が重要だ。

 昭和期には何度かあったという怪獣ブーム。父はその直撃を受けている。いわゆる、元祖オタク世代だ。ゴジラ映画の作られなかった時期もあったけど、大学生の時に、ゴジラは復活した。毎年、正月にゴジラ映画を鑑賞する、という幸福な時期もあったらしい。

 そんな父も社会人になり、仕事が忙しくなると、ゴジラと疎遠になる。(蛇足だけど、当時、父の世代は「新人類」とは呼ばれたそうな)

 ゴジラ映画そのものも、ゴジラ生誕50周年記念の作品を最後に、長い休眠時代に入った。ゴジラへの熱い想いは、父の心の奥底に封印されたのだ。そんな経緯もあり、最新作の『シン・ゴジラ』やハリウッド版『ゴジラ』には、大いに心を揺さぶられたらしい。

 私はゴジラが苦手なので、どちらの映画も観ていない。もしかしたら、優れたエンターテイメントなのかもしれないが、やはり観ようとは思わない。ゴジラはトラウマだし、そもそも仕事にかかりっきりで、DVDを観る時間なんかないからだ。
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