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【3秒カクテル】Ⅱ④

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 まさか、ミラノさんの時みたいに、断片的な情報から隠された真相を推理したの? バーテンダー探偵の面目躍如ってわけですか?

「大したことではありませんよ。まず、転職というのは、求人雑誌が目に入ったからです」

 桐野さんの視線を辿ると、小笠原さんのショルダーバッグから、オレンジ色の雑誌が顔をのぞかせていた。雑誌名を確認すると、『求人ジャーナル』とある。ああ、なるほどね。

「次に、名刺です」

 私がカウンターに置いた名刺を、桐野さんはスラリとした指先で示した。

「名刺入れにはまだ充分あるのに、小笠原様が〈最後の一枚〉とおっしゃいました。それは〈これが最後の取材〉という意味と受け取ったのですが、この想像はいかがでしょうか?」

 小笠原さんの沈黙は、肯定を意味していた。

「あと失礼ながら、奥様との言い争いというのは、無意識の仕草に出ていました。大きな悩みはなぜか、手元に出るものです」

 桐野さんの言葉で止まったが、それまで小笠原さんの指はせわしなく動いていた。左手の薬指の付け根を右手の人差し指でゴシゴシとこすっていたのだ。

「指輪を外した痕をこすっておられたんですね。おそらく、奥様とケンカをした後、小笠原様はいたたまれなくなって、外されたのだと思います」

「驚いたね、そんなことまでわかるのか?」小笠原さんは呆気にとられていた。「まいったね。あんたの眼には、俺の姿は丸裸らしい。そんな汚いもの、あんただって見たくはねぇだろうがな」

 小笠原さんの声音が変わっていた。からかいと揶揄やゆの口調から、明るく陽気なそれに。とげとげしかった表情も、いくぶん柔らかくなっていた。

「あんたの言う通り、女房とは今朝、出がけにやりあったんだ。おっと、手は上げちゃいねぇぜ。口は悪いが、俺は平和主義者なんだ。あんまりムカついたから、指輪だけは外したがな」

 そう言って、小銭入れの中から、指輪を取り出して見せた。

「愚痴っても仕方ねぇが、今の仕事を続けるのは、もう限界だ。子供の学費や将来を考えたら、ライターの安月給じゃ、どうにもやっていけねぇんだ。かといって、ツブシの利かねぇ仕事だから、転職もままならねぇ。結局、女房の実家の焼き肉屋を手伝うことにした」

 私と桐野さんは黙って聞いていた。

「安いだけが取り柄の汚い店だが、それなりに繁盛している。働き手が欲しくて、俺なんかでも大助かりということらしい。けど、どこかで、俺のプライドがうずくんだ。これまで積み上げてきたキャリアを捨てていいのかってよ」

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