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【3秒カクテル】Ⅱ②

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「そうかい? どちらにしても、俺に言わせりゃ眉唾まゆつばだね。カクテルで夢が叶う? 自殺を思いとどまる? 笑わせてくれるね。お姉ちゃん、店の宣伝文句に使ったらどうだい?」

 後半の馴れ馴れしい言葉は、私に向けられていた。ホステスか何かと勘違いしているらしい。

「あの、失礼ですが、いいかげんな記事を書くおつもりなら、帰っていただけませんか?」

 カチンときたので、つい皮肉っぽい言い方になる。だけど、この程度では小笠原さんには通じない。

「いいかげんな記事なんか、一度だって書いたことはねぇよ。これでも、ジャーナリストの端くれだからな。自分の眼で確かめた真実しか書けねぇんだ」

 そんな言葉、信じられるはずがない。高森先生の件といい、今日はどうやら厄日のようだ。

「へへへ、世の中の化けの皮をはがすってのが、俺の基本スタンスでな」

 小笠原さんは店内をグルリと見渡した。

「【銀時計】ってのは、伝説のバーテンダー・雪村隆一郎の名店だったんだろ。孫娘のあんたがそのブランドを復活させるのなら、いろいろ企んでいるはずだ。例えば、雪村隆一郎の【雪村カクテル】を完全に再現するとかさ」

「まさか、そんな大それたこと、考えたこともありません」
 図星だったけど、私は笑って受け流した。

「【雪村カクテル】の真実、長年の謎が今白日のもとに、ってワケよ。ズバリ、いい宣伝になるぜ。物珍しさで、店の前に行列ができるんじゃねぇの。このアイデアが気に入ったら、100万円で権利を売ってやるよ」

 下品な表情で、薄ら笑いを浮かべている。つくづく、見ているだけで不愉快になる人だ。

 はぁ、他にお客様がいなくて、本当によかった。早く帰ってくれないかな。
 そんな私の想いも知らず、小笠原さんは桐野さんに人差し指を向ける。

「で、実際どうなんだ? あんたに【雪村カクテル】が作れないなら、話はこれまでだ。例えば、そうだな、有名な【3秒カクテル】を作れたりすんのかよ」

 小笠原さんがここで、【3秒カクテル】の名を出したのは偶然だろう。でも、10分前にも断っているのだから、桐野さんの答えは決まっていた。

 申し訳ありませんが、そのカクテルはお出しすることができません。そう言うはずだったのに……。

「はい、かしこまりました。【3秒カクテル】ですね」

 聞き間違えではなく、桐野さんは確かにそう言ったのだ。この時ほど驚いたことはない。

「ええっ、どうしてですかっ」
 私は経営者の立場を忘れて、思わず叫んでしまった。

「小笠原様は、【3秒カクテル】を味わう条件をお持ちです。ひと目でわかりました」
 桐野さんは平然と、そう言ってのけた。
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