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【3秒カクテル】⑧
しおりを挟む【3秒カクテル】とは【雪村カクテル】の中で、最もミステリアスなカクテルである。考案したのはもちろん、私の祖父である雪村隆一郎。その正体は謎に包まれている。というより、ほとんど何もわかっていない。
【3秒カクテル】を飲んだ人は、たった1人の女性だけ。レシピやメモの類はまったく残されていない。当時、同じ店にいた愛弟子たちに、ヒントすら与えなかったのだから、雪村隆一郎の秘密主義は徹底していた。
数ある【雪村カクテル】の中で、ぜひ再現したいと私が思っているのが、【3秒カクテル】だ。たった3秒で完成した、という伝説が残されている。3秒とは、どこからどこまでの3秒なのだろう。グラスが空の状態から?
本当にカクテルなのだろうか?
【3秒カクテル】の正体解明は、ちょっとしたミステリーである。一体どんなカクテルなのか、見当もつかない。一体どういう過程を経て、そんなカクテルを作ろうとしたのか。雪村隆一郎の頭の中をのぞいてみたい気分だ。
実は、桐野さんには伝えていないが、私は【雪村カクテル】を再現していきたいと目論んでいる。そのために、独創的な創作カクテルを得意とする桐野さんに白羽の矢を立てた、と言い換えてもいい。
これは、小娘の野心だ。でも、高森先生の口から、【3秒カクテル】が飛び出すとは予想もしていなかった。好奇心がムクムクわきあがる。
「あの、お聞きしますが、高森先生は、【3秒カクテル】とはどんなカクテルだったのか、御存知なのですか?」
「残念ながら、答えはノーだ。いろいろな仮説があるが、その正体を知っている者は、雪村隆一郎以外に一人もいないだろう。単なるホラ話だという意見もある。常識で考えれば、3秒でカクテルが作れるものか」
「常識で考えられないから、人は夢やロマンを感じるのかもしれません」
「そう、ミノリくんの言う通りだ。とびきり奇抜で、想像を絶する意外性。雪村隆一郎には、その手のエピソードが多い。中には、〈暗闇で光るカクテル〉なんて、荒唐無稽なものもあったな。だからこそ、伝説になるというべきか。どう思うね、桐野くん」
「そうかもしれませんね。【3秒カクテル】の謎解きは、ミステリー小説のように、バーテンダーの心を鷲掴みにします。3秒で完成したという伝説を耳にした者は一人残らず、レシピを読み解こうとするでしょう」
「君も【銀時計】のバーテンダーなら、自分なりのレシピを考案したはずだね。ならば、君の考えた【3秒カクテル】を飲ませてくれたまえ」
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