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【3秒カクテル】③
しおりを挟む半ば諦めていたところ、洋子先輩から連絡を受けたのだ。
「たった今、高森先生から前向きな御返事をいただいたの。この電話を切ったらすぐ、先方の事務所に連絡するのよ」
何でも、高森先生は雪村隆一郎の孫娘に、いたく興味をもたれたらしい。超ラッキーである。幸いなことに話はトントン拍子で進んだ。高森先生が過密なスケジュールの合間をぬって、わざわざ【銀時計】まで来ていただけることになったのだ。
それが、この一週間の出来事である。
「これはもう、奇跡的なことだからね」とは、洋子先輩の弁。
本当に幸運だった。高森先生は、高名な料理評論家だ。テレビ番組にレギュラー出演をしているし、執筆した本はベストセラーになっている。SNSには数十万人のフォロワーがついているらしい。
高森先生に認めてもらえれば、【銀時計】は一流店のお墨付きをいただいたのも同然である。私は思い切って、招待状の最後に、「最高のカクテルを御馳走します」と書き添えておいた。こういう大胆さは、小娘の特権だろう。
「ただね、ミノリン、手放しで喜んでばかりはいられないよ」
コーヒーを飲み干した洋子先輩が、声をひそめた。
「ラッキーというのは、高森先生がカクテルを気に入った場合だけよ。万が一、気に入られなければ、これはもう逆効果だからね」
愕然とした。洋子先輩の言う通りだ。「悪事千里を走る」。まずい話や失敗談ほど世間を駆け巡る。そうなれば、結果は最悪。【銀時計】は多大なダメージを負ってしまう。
背筋が冷えた。いや、大丈夫、心配は不要だ、と思い直す。
桐野さんの創作カクテルには、圧倒的な独創性がある。私は自分の眼と舌でそれを味わった。その感覚を信じているし、必ず期待に応えてくれると思う。そう信じよう。
銀座8丁目は銀座の奥の奥だけど、新橋から見れば銀座の入り口。
御門通りを進み、銀座博品館劇場を通り過ぎ、中央通りを渡ってから、裏路地を入る。ゆっくり歩いても、新橋駅の改札口から10分ほどだ。【銀時計】は華やかなネオンから離れていて、つい見落としされがちだけど、決して立地条件は悪くない。
少し歩けば、バーとクラブが軒を連ねた通りだし、8丁目には現存する銀座最古のバー「ボルドー」だってあるのだ。【銀時計】が復活する場所として、銀座8丁目はとてもマッチしているように思う。
そうでしょう、お祖父ちゃん。
期待と不安に包まれながら、ついに運命の日を迎えた。プレ・オープンの夜。【銀時計】の未来を決定するといっても、決して過言ではない。
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