44 / 100
【3秒カクテル】①
しおりを挟むアメリカには、「最後にバーに行け」という言葉がある。家族にも友人にも相談できない悩みは、バーテンダーに聞いてもらうといい、という意味だ。日本だって、それは変わらない。
バーテンダーの人たちは、本当に聞き上手だ。優しくて親切だし、的確な相槌をうって、話を引き出してくれる。些細な悩み事にも耳を傾けてくれるし、アドバイスだってしてくれる。話し終わった時には、心はスッキリ爽快感。抱えていた悩みはどこかに吹き飛んで、帰宅すればぐっすり眠れるというわけ。
バーテンダーとは、理想的な話し相手なのだ。私にとって最高のバーテンダーは、もちろん桐野黎児さんである。
でも、仕事上のことならともかく、恋の悩みは話せない。
「大好きな男性がバーテンダーなんです。でも、九つも離れているし、私は童顔で子供っぽいし、恋愛対象に見てもらえるかどうか、不安で告白できないんです。桐野さん、どうしたらいいと思いますか?」
そんなこと、口が裂けても言えやしない。
あーあ、雪村ミノリの片恋は続きそうだねぇ。中学生の時みたいに、〈コイコリン〉に願掛けをしてみようかな。
〈コイコリン〉というのは、彫刻家,流政之氏による「恋の招き猫」のこと。
銀座4丁目交差点、三愛ドリームセンターの前に、このユニークな像はある。ノルウェー産の御影石から掘り出したもので、大きさは巨大な枕といったところ。オスとメスの二匹がいて、女性ならオスの「ごろべえ」、男性ならメスの「のんき」を撫でれば、願い事が叶うといわれている。いわゆる、「縁結びの猫」なのだ。
蛇足だけど、この〈コイコリン〉、こわれた恋を取り戻したいとか、パートナーの浮気をやめさせたいとか、シチュエーションによって、撫でる場所が違ってくる。私のように好きな人と結ばれたい人は、顔を撫でるとよいらしい。平面的でのっぺりした顔だけどね。
ただ、つい調子に乗って2回以上撫でると、効果が薄れるらしい。その点は要注意です。以上、蛇足終了。
でも、【銀時計】のオープンを控えて最も重要な時期だし、恋愛関係はお預けかな。実は、後見人の相葉さんから念を押されているのだ。
「ミノリちゃん、女が事業を始めるなら、色恋沙汰は諦めろ。絶対御法度だからな」
銀座,六本木,赤坂で長年、水商売を手がけてきた相葉さんによると、女性経営者は女を捨てないと、一流になれないという。その証拠に、女性経営者の大半が独身だとか。
一度ビジネスの魅力にとりつかれると、男どころではなくなるらしい。先が読めず、自分の思い通りにならない、たまらない魅力があり刺激的、という点では、ビジネスと男は同じカテゴリーなのかもしれない。
小娘の私には、まったく想像もつかないけど。でも将来的に、仕事か恋か、二者択一に悩む時がくるのかも。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
義母の秘密、ばらしてしまいます!
四季
恋愛
私の母は、私がまだ小さい頃に、病気によって亡くなってしまった。
それによって落ち込んでいた父の前に現れた一人の女性は、父を励まし、いつしか親しくなっていて。気づけば彼女は、私の義母になっていた。
けれど、彼女には、秘密があって……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる