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【3秒カクテル】①

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 アメリカには、「最後にバーに行け」という言葉がある。家族にも友人にも相談できない悩みは、バーテンダーに聞いてもらうといい、という意味だ。日本だって、それは変わらない。

 バーテンダーの人たちは、本当に聞き上手だ。優しくて親切だし、的確な相槌をうって、話を引き出してくれる。些細な悩み事にも耳を傾けてくれるし、アドバイスだってしてくれる。話し終わった時には、心はスッキリ爽快感。抱えていた悩みはどこかに吹き飛んで、帰宅すればぐっすり眠れるというわけ。

 バーテンダーとは、理想的な話し相手なのだ。私にとって最高のバーテンダーは、もちろん桐野黎児さんである。

 でも、仕事上のことならともかく、恋の悩みは話せない。

「大好きな男性がバーテンダーなんです。でも、九つも離れているし、私は童顔で子供っぽいし、恋愛対象に見てもらえるかどうか、不安で告白できないんです。桐野さん、どうしたらいいと思いますか?」

 そんなこと、口が裂けても言えやしない。

 あーあ、雪村ミノリの片恋は続きそうだねぇ。中学生の時みたいに、〈コイコリン〉に願掛けをしてみようかな。

〈コイコリン〉というのは、彫刻家,流政之氏による「恋の招き猫」のこと。

 銀座4丁目交差点、三愛ドリームセンターの前に、このユニークな像はある。ノルウェー産の御影石から掘り出したもので、大きさは巨大な枕といったところ。オスとメスの二匹がいて、女性ならオスの「ごろべえ」、男性ならメスの「のんき」を撫でれば、願い事が叶うといわれている。いわゆる、「縁結びの猫」なのだ。

 蛇足だけど、この〈コイコリン〉、こわれた恋を取り戻したいとか、パートナーの浮気をやめさせたいとか、シチュエーションによって、撫でる場所が違ってくる。私のように好きな人と結ばれたい人は、顔を撫でるとよいらしい。平面的でのっぺりした顔だけどね。

 ただ、つい調子に乗って2回以上撫でると、効果が薄れるらしい。その点は要注意です。以上、蛇足終了。

 でも、【銀時計】のオープンを控えて最も重要な時期だし、恋愛関係はお預けかな。実は、後見人の相葉さんから念を押されているのだ。

「ミノリちゃん、女が事業を始めるなら、色恋沙汰は諦めろ。絶対御法度だからな」

 銀座,六本木,赤坂で長年、水商売を手がけてきた相葉さんによると、女性経営者は女を捨てないと、一流になれないという。その証拠に、女性経営者の大半が独身だとか。

 一度ビジネスの魅力にとりつかれると、男どころではなくなるらしい。先が読めず、自分の思い通りにならない、たまらない魅力があり刺激的、という点では、ビジネスと男は同じカテゴリーなのかもしれない。

 小娘の私には、まったく想像もつかないけど。でも将来的に、仕事か恋か、二者択一に悩む時がくるのかも。
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