25 / 100
【龍馬カクテル】④
しおりを挟む
「えっ、リオナさんのお父さんですよね」
「ええ、そうですよ」
私の聞き違いじゃなかった。
「亡くなった方を悪く言いたくはないですが、周囲の人たちを不愉快にする方でした。客商売をしていながら、口を開けば、自慢話か他人の悪口ばかり。夫婦仲は常に険悪でしたし、リオナさんとの関係も最悪といっていいでしょう」
亡き父から愛娘へのプレゼントだというから、勝手に感動的な話を想像していた。どうやら、そんな単純な話ではなさそうである。
「伊吹さんはリオナさんと顔を合わせれば、下品な冗談やダジャレばかり。年頃の娘がそっぽを向く理由としては充分でしょう」
「そうですね。よくわかります」
私も父の冗談には閉口している口だから。世の中の父親たちは、なぜ、娘たちを不愉快にさせるのだろう。わけがわからない。おまけに、当人に自覚がないのだから、始末に負えない。いや、話が脱線しかけた。
「でも、伊吹さんはリオナさんのために、【龍馬カクテル】を考えたんですね。あの、ちなみに、伊吹さんの下の名前は?」
「巌。山の下に厳しい、と書きます」
私はノートを開いて、ボールペンで〈伊吹巌〉と書いてみる。
「いかにも頑固そうな名前ですね」
「仕事よりギャンブル優先のさぼり魔なのに、プライドばかり高かったですね。自分の作ったカクテルのケチをつけられて、お客様に殴りかかったこともありました」
それは客商売として問題外だろう。
「あの、桐野さんも伊吹さんから、不愉快な目に?」
「まぁ、そうですね。理由なく何度も殴られました」と、苦笑した。「この業界は上下関係が厳しくて、口答えは許されませんから。ただ、当時の僕は青二才だったし、悪いことばかりじゃない。僕はバーテンダーの基本は、伊吹さんから学びましたよ。反面教師という形でね」
二人が勤めていたのは、上野のカフェバー。カクテルよりコーヒーがメインの店だったらしい。桐野さんが伊吹さんと一緒に働いたのは二年半だけ。それでも、一年に数回は呼び出されて、もっぱら愚痴と自慢話を聞かされていたらしい。
ちなみに、桐野さんがリオナさんに呼び出されるのは、数ヵ月に一回ほど。リオナさんは多忙なので、仕事の狭間に都合がつけば、ということらしい。ただ、桐野さんがお店を転々としても、ずっと連絡を取り合っていたのだ。恋人同士ではなさそうだけど、微妙な間柄のように私には見えてしまう。
「ええ、そうですよ」
私の聞き違いじゃなかった。
「亡くなった方を悪く言いたくはないですが、周囲の人たちを不愉快にする方でした。客商売をしていながら、口を開けば、自慢話か他人の悪口ばかり。夫婦仲は常に険悪でしたし、リオナさんとの関係も最悪といっていいでしょう」
亡き父から愛娘へのプレゼントだというから、勝手に感動的な話を想像していた。どうやら、そんな単純な話ではなさそうである。
「伊吹さんはリオナさんと顔を合わせれば、下品な冗談やダジャレばかり。年頃の娘がそっぽを向く理由としては充分でしょう」
「そうですね。よくわかります」
私も父の冗談には閉口している口だから。世の中の父親たちは、なぜ、娘たちを不愉快にさせるのだろう。わけがわからない。おまけに、当人に自覚がないのだから、始末に負えない。いや、話が脱線しかけた。
「でも、伊吹さんはリオナさんのために、【龍馬カクテル】を考えたんですね。あの、ちなみに、伊吹さんの下の名前は?」
「巌。山の下に厳しい、と書きます」
私はノートを開いて、ボールペンで〈伊吹巌〉と書いてみる。
「いかにも頑固そうな名前ですね」
「仕事よりギャンブル優先のさぼり魔なのに、プライドばかり高かったですね。自分の作ったカクテルのケチをつけられて、お客様に殴りかかったこともありました」
それは客商売として問題外だろう。
「あの、桐野さんも伊吹さんから、不愉快な目に?」
「まぁ、そうですね。理由なく何度も殴られました」と、苦笑した。「この業界は上下関係が厳しくて、口答えは許されませんから。ただ、当時の僕は青二才だったし、悪いことばかりじゃない。僕はバーテンダーの基本は、伊吹さんから学びましたよ。反面教師という形でね」
二人が勤めていたのは、上野のカフェバー。カクテルよりコーヒーがメインの店だったらしい。桐野さんが伊吹さんと一緒に働いたのは二年半だけ。それでも、一年に数回は呼び出されて、もっぱら愚痴と自慢話を聞かされていたらしい。
ちなみに、桐野さんがリオナさんに呼び出されるのは、数ヵ月に一回ほど。リオナさんは多忙なので、仕事の狭間に都合がつけば、ということらしい。ただ、桐野さんがお店を転々としても、ずっと連絡を取り合っていたのだ。恋人同士ではなさそうだけど、微妙な間柄のように私には見えてしまう。
0
『銀座のカクテルは秘め恋の味』の御閲覧をありがとうございました。いかがだったでしょうか。もし、お気に召したのなら、「お気に入り」登録をお願いいたします。どうぞ、お気軽に楽しんでください。
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる