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【龍馬カクテル】②
しおりを挟むえっ、だって、桐野さん、乗り気じゃなかったのに。どういう風の吹き回し?
いや、あくまで自分のやり方で進めよう、というつもりなのか。それはちょっと困るけど、ええっと、でも……。
「桐野さんはこれまで通り、御自分のやり方を貫いてください。私は雪村隆一郎の名前や【雪村カクテル】より、桐野さんの考え方とやり方を尊重します」
そう言ったのは、他ならぬ私だ。
桐野さんは真っ直ぐな眼をして、
「イメージに形を与える行為は、無から有を生み出すことと同義。大袈裟ではなく、まさに神の所業ですよ。それほど困難を極めます。なぜなら、明確な答えがないからです。ミノリさん、今回の【龍馬カクテル】という問いかけに、正解があると思いますか?」
「えっ、もちろん、あると思いますけど」
「そうですか。僕は明確な正解はない、という考えです。もちろん、【龍馬カクテル】の正体を推測して、作り上げることはできます。でも、あくまで推測にすぎません。これが正解、というジャッジを下せる者は、この世に一人もいないのです」
「ああ、そう言われれば、そうなのかもしれませんね」
「何をもって正解とするか。いや、正解という言葉は適切ではないですね。推測という言葉では重みがないし、結論と言いなおしましょうか。いくつかの仮説を挙げて、それぞれの比較検討と吟味を重ねた結果、こういう結論にいたりました、という流れです。それを、僕たちの取り組みの最終的な形としましょう」
「え、僕たちって、桐野さんと私ですか?」
「もちろん、そうですよ。失礼ですが、ミノリさん、僕の話についてきていますよね」
「ええ、大丈夫です」
正直いって、意味をつかみきれていない部分はあるけれど。
「噛み砕いて言うと、【龍馬カクテル】の結論の出し方が、今後の【雪村カクテル】解明のシミュレーションになる、ということです。ミノリさんは、【龍馬カクテル】の切り口をどのように捉えていますか?」
「切り口というと?」
「僕の先輩である伊吹さんが考案したのだから、当然、創作カクテルになります。でも、切り口はいくつも考えられます。龍馬の人物像をイメージしたカクテル、龍馬の偉業を称えるためのカクテル、龍馬のエピソードを表現したカクテル」
私は少し考えてから、
「……龍馬のイメージを表現したカクテルだと思います」
「そう、それがオーソドックスな切り口ですね。ただ、イメージには個人差があり、感じ方は人それぞれです。龍馬は国際感覚や先見性に富んだ人物と捉える人もいれば、志半ばで暗殺された悲劇の人物と捉える人もいる」
「なるほど、人それぞれのイメージがあるということですね」
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