銀座のカクテルは秘め恋の味

坂本 光陽

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推理ゲーム⑥

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「リオナさん、そろそろ御用件を話してくれませんか?」

 桐野さんが痺れを切らしたように言う。

「そうね。飲みながらで構わない?」リオナさんは窓の外を見やる。「陽が暮れたみたいだし、軽く一杯いただきたいな」
「まだ開店前ですが、よろしいですか、ミノリさん」

 もちろん、私は頷いた。
 桐野さんはカウンターの中に入り、バーテンダーの顔つきになる。

「いつものやつね」カウンター席に移ったリオナさんが言う。

 二人は久し振りに会っても、「いつものやつ」で通じる間柄か。恋愛感情ではなくても、家族のような親密さを感じさせる。私は一人取り残されたみたいで、ちょっぴり疎外感。

 冗談はさておき、リオナさんの「いつものやつ」は何なのかな?

 見ると、桐野さんはコリンズグラスのエッジ(縁)を、レモンの輪切りでぬらしている。グラスを引っ繰り返し、平らな皿に広げた塩をエッジにつける。ソルト・スノー・スタイル。グラスのエッジに雪を降らしたわけ。

 水洗いしたアイスキュープの上から、ベースのウォッカを加える。さらに、グレープフルーツジュース。

 ここまでくれば、私にもわかる。リオナさんの「いつものやつ」とは、ソルティー・ドッグだ。

 桐野さんはバー・スプーンで優雅にステアする。とても手先が器用だ。しなやかな長い指で、バー・スプーンを回転させる。氷同士のぶつかる音は、ほとんど聞こえない。

 桐野さんによると、ぶつかると氷の角が砕けてしまうし、砕けた氷は溶けやすいという。カクテルを水っぽくしないために、静かなステアを実践しているのだ。

 桐野さんはステアを終え、バー・スプーンをスッと抜く。長い指をそえたコリンズグラスが、一枚板のカウンターの上を滑り、リオナさんの前に差し出された。
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