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推理ゲーム➀
しおりを挟むリオナさんは目を丸くして、
「へぇ、あなた、銀座に詳しいのね」
「大したことではありません。銀座で働く者のたしなみです」
何てことはない。すべて、相葉さんの受け売りだ。銀座の生き字引である相葉さんには、日頃から銀座の歴史を教えてもらっている。
「あ、お土産があるの。よかったら、これ、どうぞ」
リオナさんが紙袋の中から、黒い包装紙の箱を取り出した。
「すいません、ありがとうございます」
受け取る時に、指のバンドエイドに気がついた。料理をする時にでも怪我をしたのだろうか? でも、両手合わせて5,6枚は巻かれていた。リオナさんは案外、そそっかしいのかもしれない。
「それ、くろ玉というお菓子よ。今、開けちゃって、一緒に食べない?」
「そうですね。じゃあ、早速」
なるほど、包装紙に「甲斐銘菓 くろ玉」とある。
「甲府にいらしていたんですか?」
「うん、ちょっとお墓参り」
ふうん、リオナさん、山梨県の人なのか。
「JR埼京線と特急を乗り継げば、東京から2時間程で着くのね。意外と近く感じたな」
あれ、その口振りだと、実家は山梨じゃないのか。くろ玉はその名の通り、黒い玉だった。小皿に取り分けていたら、「カラン、カラン」と、アンティーク・ベルが鳴った。
ドア口に佇んでいるのは、桐野さんである。
「伊吹さんがお待ちですよ。お客様なら、そう言ってくれればいいのに」
私の小言をスルーして、桐野さんはリオナさんに会釈した。
「すいません、お待たせしましたか?」
「ううん、来月からここで働くんだね。また贔屓にさせてもらうよ」
久しぶりの再会らしく、二人の会話は弾んだ。私の知らない桐野さんをリオナさんは知っている。私はくろ玉を小皿に盛って、麦茶のお代わりと一緒に持っていった。
さりげなく、二人の様子を観察した。恋人同士にしては他人行儀だし、桐野さんの方が2,3歳年下のはずだから同級生でもない。この二人、どういう関係?
そんな私の視線を感じとったのか、リオナさんが桐野さんに向かって言った。
「可愛らしい方ね。桐野くん、紹介してよ」
桐野さんが私を見やりながら、
「こちら、雪村ミノリさんです。僕の雇い主であり、この店の経営者になります」
「へぇ、経営者。そうなんだ」リオナさんは眼を丸くしていた。
おそらく、ウエイトレスと思われていたのだろう。悔しいけれど、幼い外見をしている以上、このパターンは続くだろうな。
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