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時間ゴーグルの巻

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 小吉のクラスに、季節外れの転校生があった。三角と書いてミスミと読む美少年である。女の子たちはミスミに興味津々だったのだが、肝心のミスミが不愛想だったため、すぐに騒ぎは沈静化した。

 小吉が放課後、百合と一緒に星座の本を見ながら、
「僕、みずがめ座なんだけど、これってみずがめに見えないよね」
「みずがめ座は独創性をもちあわせた博愛主義者だって」
「へぇ、百合ちゃんは何座?」
「私はおとめ座だよ」

「おとめ座は、高い倫理観をもった几帳面な人だよね」と、笑顔で話しかけてきたのはミスミだった。「ちなみに僕はてんびん座。調和を重んずる平和主義者だよ」

「へぇ、ミスミくんって、星座にくわしいね」と、百合。
「実は、ここだけの話、僕の名前ってからとられたんだ」
「え、ダイサンカク? 何、それ?」

 小吉が尋ねると、ミスミは星座の本をパラパラとめくり、あるページを指さした。
「これだよ。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のペテルギウス。これら三つの一等星でつくられた三角形のことをいうんだ。ほら、この正三角形は冬の間、よく見えるんだ」

 それから三人は、ひとしきり星座の話で盛り上がった。

「小吉くん、百合ちゃん、よかったら今夜、冬の大三角を見に行かないか? まんぷく山の展望台に行けば、よく見えると思うんだ。周りが真っ暗だからね」
「明日は休日だし、夜更かしをしても平気だね。百合ちゃんはどうする?」
「ごめん。夜の外出は、ちょっと無理。親が許してくれないと思う」

「そうか、残念だね。じゃ、小吉くん、二人で行こう」
 ミスミはそう言ったが、小吉は首を横に振って、
「いや、三人に行こう。昼間に星空を見る方法があると思うんだ」
「それって、プラネタリウムってこと?」
「ううん、僕に任しておいて。明日の昼間は三人で天体観測だよ」

 そう言って、小吉は得意げに笑った。
 だが、もちろん、小吉一人では何もできない。家に帰るなり、居眠り中のポン太郎を揺り起こし、

「ポン太郎、相談にのってくれよ」
「どうしたんだ、小吉くん」
「明日の昼間、百合ちゃんと一緒に天体観測をしたいんだ」

 ポン太郎は亜空間からやってきた魔法使いである。小吉が困った時には助けてくれる心優しき相棒なのだ。小吉から事情を聞いたポン太郎は、亜空間バッグの中を探って、
「昼間に星空を見ると言うなら、これかな。万能アイテム〈時間ゴーグル〉」

 それはスキー用ゴーグルに似ていたが、〈時間ゴーグル〉の名前通り、見る対象物の時間を自由自在に操作することが可能。つまり、昼間でも星空を眺めることができるのだ。

 翌日、小吉とポン太郎は、百合、ミスミと待ち合わせて、まんぷく山に登った。正午近くに展望台に着いたので、一同はお弁当を広げた。百合がサンドイッチを多めに作ってきたので、小吉たちは御馳走になった。

 みんなが満腹になった後で、本日のメインイベントとなる。もちろん、天体観測だ。
 ポン太郎は小吉、百合、ミスミに〈時間ゴーグル〉を渡して、
「とりあえず、何も言わずにつけてみて。時間は半日前にセットしてあるから」

 小吉たちは〈時間ゴーグル〉を装着すると、あっと驚きの声を上げた。目に飛び込んできたのは、満天の星だったからである。それこそ、天から数多の星が降りそそいでくるような、圧倒的な情景だった。

「きれいだね、百合ちゃん」と、小吉。
「うん、とっても、きれい」と、百合。
 ミスミは天空を指さして、
「ひときわ明るいのが一等星だ。ほら、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のペテルギウス。これが、冬の大三角だよ」

 三人は思う存分、美しい星空を楽しんだ。
〈時間ゴーグル〉に興味をもったミスミは、ポン太郎に向って、
「半日前にセットしてこの星空ということは、もしかして半年前の星空を見ることもできるのかい?」
「半年前? もちろん、できるけど」

 ポン太郎は〈時間ゴーグル〉を手早く調整して、三人に改めて装着してもらう。

「今、みんなが見ているのが半年前、昨年7月の星空だよ」
「ほんとだ。何となく、夏の空気を感じるね」と、小吉が感嘆の声を上げる。
「いや、夏の空気までは見えないと思うけど」ポン太郎が突っ込み、百合が微笑んだ。

「小吉くん、大三角は夏にもあるんだよ」ミスミが再度、天空を指さして、「こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ。これら三つの一等星を結んだ三角形は、と呼ばれている」

 ミスミは小吉を見つめていた。それに気づいた百合が、不安そうな表情を浮かべる。

「ベガは織姫星で、天の川を挟んだところにあるアルタイルが彦星。一年に一度しか会えない七夕伝説は有名だよね。僕と小吉くんは3年ぶりだったけど」
「えっ、3年ぶりって何が?」
「僕たちが再会したのは3年ぶりなんだ。小学2年の夏休み、S県のキャンプ場で、一緒に夏の大三角を眺めた。覚えているかい?」
「えっ、うーん。そんなことがあったっけ」
「僕はその時、両親の教育方針で、女の子の格好をしていたけどね」

 そう言って、ミスミは小吉を熱っぽく見つめた。織姫が3年ぶりに彦星に会えた時みたいに。ポン太郎と百合は思わぬ展開に戸惑っているし、小吉はまだ事態を飲み込めずにいた。

 この日から小吉たちの奇妙なが始まったのが、それはまた別の話である。
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