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惚れ惚れマフラーの巻
しおりを挟む小吉は小学校から帰ってくるなり、居眠りをしていたポン太郎を揺り起こした。
「ポン太郎、助けてよ」
「どうした、小吉くん」
「百合ちゃんへの贈り物を忘れていたんだ。素敵なクリスマスプレゼントをあげたいんだよ」
「お小遣いがないんだね。十歳にはアルバイトができないんだから、ママさんのお手伝いをして、ご機嫌をとらないと」
「冷たいな、ポン太郎。何とかしてよ。一生のお願いだよ。大好物のタコ焼きを好きなだけ食べさせてあげるから」
「しようがないなぁ。小吉くんはどうしたいの? まさか、百合ちゃんのハートを鷲づかみにしたいとか?」
「ハ、ハートを鷲づかみ? そんなことができるの? ぜひ、頼むよ。お願いだよ。ポン太郎っ」
「やれやれ、今回だけだよ。そうだなぁ、これでいいかな。万能アイテム〈惚れ惚れマフラー〉」
ポン太郎は、亜空間からやってきた魔法使いだ。小吉が困った時には、いつも助けてくれる。ポン太郎がマジカルバッグから取り出した〈惚れ惚れマフラー〉は、ごくありふれたマフラーだった。少なくとも見かけは、普通の手編みマフラーである。
しかし、これこそが、ポン太郎の万能アイテムなのだ。
小吉はポン太郎の指示にしたがって、〈惚れ惚れマフラー〉を首に巻いた。小吉を「乙」として登録したのだ。そのマフラーを百合が首に巻けば自動的に「甲」になり、「甲」が「乙」に惚れてしまう、というシステムなのである。
「ありがとう。ポン太郎。これで百合ちゃんのハートは僕のものだね」
翌日、小吉はマフラーを入れた紙袋を手に、川べりで百合と待ち合わせをした。ポン太郎は物陰から、小吉の恋が実るように、あたたかく見守っていた。一級河川の荒川のような広い心で。
小吉がベンチに座って、緊張からカチコチに固まっていた。やがて、百合が笑顔でやってきて、小吉の隣に腰を下ろした。
「小吉くん、いい天気ね」
「う、うん、そうだね。明日も晴れるといいね」
あたりさわりのない会話がしばらく続いた。小吉はガチガチになっているので、百合はいぶかしんで、
「どうしたの? 今日の小吉くん、何か変だよ」
「う、ううう」
小吉は一念発起して、傍らにあった紙袋を百合に差し出しながら、
「百合ちゃん、これ、受け取ってください」
「ほいよー」
女の子の声ではなかった。ほぼ同時に、ロードバイクが早いスピードで、二人の前を通り過ぎて行く。しかも、ペダルをこいでいる高校生は、すれちがいざまに、小吉の差し出した紙袋をかっぱらった。
「ガキがいちゃつくんじゃねぇ! ブワァーカっ!」そう言って、紙袋を荒川に放り投げたのだ。
「ああー」小吉の悲鳴がむなしく響く。
紙バッグがボチャンと川に落ち、ブクブクと沈んでいった。
百合は「こらー」と怒りの声を上げるが、小吉はガックリと肩を落としていた。
「ひどいことをするわね。小吉くん、あの紙袋には何が入っていたの?」
「マフラーが入っていたんだ。百合ちゃんへのプレゼントだったのに」
「ふうん、そうなんだ」百合はにっこり微笑んで、「でも、偶然ね。私も小吉くんにプレゼントがあるんだよ」
小吉が顔を上げると、くるりと何かを首に巻きつけられた。何と、毛糸で編まれたマフラーであり、小吉のイニシャル「S」まで入っている。
「お母さんに少し手伝ってもらったけど、私、がんばって編んだんだよ」
「ゆ、百合ちゃん」
「メリークリスマス、小吉くん」
「メ、メリークリスマス」
何はともあれ、結果オーライ。小吉と百合は笑顔で見つめ合っていた。
物陰から見守っていたポン太郎も、
「よかったね、小吉くん」と、涙をぬぐった。
だが、彼らは一つ忘れていた。荒川に落ちたプレゼントの件である。〈惚れ惚れマフラー〉は、やがて海に流れ着き、偶然にも、ある動物の首に巻きつくことになる。
それは、メスのゴマフアザラシだった。彼女は自動的に「甲」となり、「乙」である小吉に恋焦がれることになる。荒川をさかのぼってきた彼女が「荒川のゴマちゃん」としてニュースになるのは、また別の話である。
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第六章 スカーフェイスを追って
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