愛のしたたる果実【Ｒ１８】

初恋の相手

　私の初恋は、お兄ちゃんだった。
　背が高くて、ハンサムで、頭がよくて、泣き虫の私を守ってくれる騎士だった。
　大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ。幼い頃は、そう思い込んでいた。典型的なブラザー・コンプレックスだったと思う。

　小学生の頃、よく友達にからかわれた。
「美潮ってさ、絶対にブラコンだよね」
「何かにつけて、お兄ちゃんはぁ、お兄ちゃんはぁ、だもんね」
「ね、血がつながっていなかったら、お兄ちゃんと結婚できるのにとか、マジ考えてるでしょ」

　図星だった。
　私は必死に笑顔を作りながら、表情が引きつっていないか気にしていた。

　それほど、お兄ちゃんが大好きだったのだ。二つしか違わないのに、同級生の男の子たちとは全然ちがう。背が高くて、ハンサムで、頭がよくて……。

　当然のように、ライバルがいっぱいいた。バレンタインデーには机の中がチョコでいっぱいだったし、私のことをブラコンとからかった友達だって、隙あらばお兄ちゃんに色目を使う。身の回りの女の子は皆、恋敵として油断ならなかった。

　もっとも、お兄ちゃんは真面目なので、女の子の誘惑になびくことはない。そういうところもカッコよくて、自慢のお兄ちゃんだった。

　けれど、人は皆、年をとっていく。お年頃になって、異性に興味をもつようになる。
　高校生になると、私はそこそこの美少女に成長し、人並みに告白をされたりもした。

「ラブレターをもらっといて、どうして付き合ってあげないの」
「バスケ部の次期キャプテンなんでしょ。どうしてダメなのよ」
「だって……」
「やっぱ、あれなの？　お兄ちゃんの方がカッコいい。そういうわけ？」
「……」
「呆れた。美潮、いつまでもブラコンじゃ、彼氏なんか絶対できないよ」

　友達によると、私のブラコンは筋金入りらしい。
　さすがに、もう、お兄ちゃんのお嫁さんになる、とは思わない。でも、男の人が声をかけてくると、つい無意識のうちにお兄ちゃんと比べてしまうのだ。

　変わらなくてはならない。
　私にはよくわかっていた。

　まさに、そんな時だった。星野くんが私の前に現れたのは。