9 / 10
カーニバル
しおりを挟むサチコたちの暮らす城下町では、春の訪れとともにカーニバルが開催される。色とりどりの花が咲き乱れ、華やかなパレードが行われたり、若者たちがダンスを踊ったりする。一年のうちで最もにぎやかなイベントだった。
三台の屋台では、ハッピー焼きが飛ぶように売れた。新鮮な食材を使っただけの効果があり、ハッピー焼きの豊かな風味は好評だった。マヨップの酸味と甘みも、すんなりと受け入れられたようだ。
何といっても、焼き立てというのが大きな売りだった。それまでにも屋台はあったが、冷え切ったパンや果物などの販売店にすぎなかった。その場で焼き上げて食べさせるイートイン形式など、誰も見たことがなかったのだ。
ハッピー焼きは一口サイズに切り分けて、きれいに皿に盛りつけた。箸やコテの代わりに、短めの串を使って食べてもらう。皿が足りなくなった時には、機転を利かせて、ハッピー焼きのテイクアウトも行った。
ハッピー焼きを串に刺したものを格安で販売したのだ。現世のイカ焼きや焼き鳥のような感じである。客は代金を払って持ち帰るだけなので、テーブルやイス、皿は使わない。おかげで、客の回転率がアップした。
カーニバルは一週間続いたのだが、ハッピー焼きは大好評だった。安くて美味しい上に、やわらかくて食べやすい。子供から高齢者まで客層は広く、連日完売になったのだ。
売上は予想以上だったし、利益率も高く、今後の展開が期待できる結果だった。ショウと子供たちは大喜びだったし、サチコも自信を深めていた。カーニバル最終日の完売後には、慰労を兼ねて、アニーの宿屋でみんなに御馳走をふるまった。
宴もたけなわという時、小さな出来事があった。サチコのはめていた〈願いの叶うブレスレット〉が、何の前触れもなく、突然千切れたのだ。
ショウが目敏く見つけて、
「おっ、これで願いが叶うんじゃないか。姉ちゃん、どんな願い事をしたんだよ」
サチコはにっこり笑って、首を横に振った。
「願い事はとっくに叶っているよ。父さんの腰が治ること。新たなビジネスがうまくいくこと。あと、みんなが元気に毎日すごせること」
そう、たった一つを除いて、サチコの願い事はすべて叶っていた。その一つと言うのは、現世に無事戻ることである。転生を果たし、物心がつくようになってから、実は現世のことを考えない日はなかったのだ。
しかし、ショウや子供たちと一緒に働いているうちに、考え方が変わってきたのだ。自分を慕ってくれる子供たちを見捨てるなど、できるはずがない。現世のことなど、どうでもよくなってしまったのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】王太子妃の初恋
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。
王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。
しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。
そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。
★ざまぁはありません。
全話予約投稿済。
携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。
報告ありがとうございます。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる