異世界のマーケター

坂本 光陽

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偽ブレスレット

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 サチコのブレスレットは装飾品であると同時に、もう一つの意味合いをもっていた。現世の言葉を借りるなら、付加価値である。物語といってもいい。「願いが叶う」というストーリーが魅力的であったため、異世界の人々の心を鷲掴みにしたのだ。

 マーケなど影も形もないため、サチコの思惑は予想以上にハマった。第二弾、第三弾と倍々ゲームのように売り上げは。アニーの宿屋を起点として、〈願いが叶うブレスレット〉は大ブームを巻き起こしたのである。

 しかし、「好事魔多《こうじまおお》し」という。これまで順調に推移していたビジネスに、不穏な影が忍び寄っていたのである。

 どうやら、異世界にもパクリというものがあるらしい。ブレスレットブームをあてこんで、偽ブレスレットが出回り始めたのだ。ショウが知人から入手したそれは、本物と同じ木の蔓を使ってはいるものの、かなり粗雑な代物だった。

 ショウはサチコに偽物を見せながら、
「こんなものを平気で売るなんて、恥知らずもいいところだ。道具屋の風上にもおけないね」と、息巻いていた。

「ひょっとしたら偽物が出回るかもって思っていたけれど、予想よりも随分はやかったな」と、サチコは平然と言ってのけた。

「えっ、姉さんにはわかっていたの? わかって放置していたの? 偽物を作っている連中は、僕らの尻馬に乗って荒稼ぎをしているのに、どうしてさ?」

 サチコは首を傾げて、
「うん、どうしてだろうね。尻馬にのるなんて、私たちの商品を認めてくれた証。そういったところかなぁ」

「何だよ、それ。こっちの売り上げを横取りされるなんて、やっぱり気分がよくないよ」

 確かに、ショウの言うとおりである。
 サチコはアニーからも同じようなことを言われた。

「偽物を手掛けた奴は盗人だね。言わば、アイデアの泥棒だよ。そんな奴は百叩きなんかじゃ足りない。地獄に落ちてしまえばいいんだ」とまで言い切った。

「アニーさん、大げさすぎるよ」サチコが笑いながら、「でも、偽物を作った人たちには興味があるな。どうせ作るなら、もっと手間暇をかけないと。どんな顔をしているのか、一度会ってみたいよ」

「それは私も同感だよ」アニーは頷いて、「偽物づくりを手掛けた連中は、この手で捜し出してみせるよ」

 その後もサチコのブレスレットは売れ続けた。偽物が粗雑だったため、かえって本物の良さが証明されたのか、一時的なブームに終わることはなかった。アニーの宿では定番商品になり、遠方から買い求めにくる客が増えたせいで、受注に生産が追い付かないほどだった。

 そんな時、偽物を手掛けた連中の正体が判明したのだ。


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